その星の名を呼ぶものは

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「あなたに『名前』をあげる」 「だけど、そうすれば、キミの本当の名前は消えてしまう」 「言ったでしょう? わたしはエト。そう呼ばれているし、それだって立派な名前だわ」  どうすれば『名前』を渡すことができるのでしょう。  エトは考えます。なにかいい方法はないものでしょうか。  辺りを見回していると、遠くのほうに教会の十字架が見えました。  毎日、神さまに祈りを捧げる場所。  いるかいないかもわからない神さまですが、今なら信じられる気がしました。  エトにとっての神さまは、一緒に星を手にしたヴォワラクテです。  ――そうだ、アレがある。  エトはカバンのなかから、小さなリンゴを取り出しました。  教会守に追い出されるように外へ出たとき、こっそりカバンに忍ばせたもの。途中でおなかがすいたら食べようと思っていたそれに、せいいっぱいの願いをこめて、エトはそれを差し出しました。  ヴォワラクテはおそるおそる手を伸べて、エトの手からリンゴを受け取ります。  するとリンゴはふたつに割れて、中にあった種から芽が出たかと思うと、ものすごい勢いで伸びていき、天へ向かいました。空全体を覆うように枝が伸び、葉が生い茂り、甘い匂いが漂います。  ヴォワラクテが持っていたリンゴは、そのまま溶けるように手のひらに吸い込まれ、消えると同時にヴォワラクテの髪がさらに鮮やかに光りました。 「ありがとう。キミのおかげで、僕は新しく名を得て、生まれ変わった」 「さいごに教えて。あなたの名前は、なんていうの?」 「ノヴァ。僕はノヴァだ」  ノヴァに応えるように、時計台が十二時を告げました。  今日がおわって、明日がくる。  新しい年のはじまりです。 「エト、待っていて。きっとどこかにあるキミの本当の名前を、見つけてくるから」
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