その星の名を呼ぶものは

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 流星群は、十年にいちど巡ってきます。  前回の流星群の夜は、星が流れて、星が生まれました。  今年もまたなにか起きるのかもしれないと町のひとは騒いでいますが、エトにとって、新年はよろこばしいことではありませんでした。  孤児院にいられるのは、十八まで。  十七になったエトは、年があけると十八になります。  昔よりはましにはなったものの、他のひとより足が不自由なエトは、やはり同年齢のひととおなじような仕事をすることができずにいて、業を煮やした教会守により、輿入れが決まったのです。  孤児のおまえにはもったいない相手だろう。なにしろ、大金持ちだ。器量だけが取り柄なのだから、せいぜい尽して可愛がってもらうんだな。  そうして、アレだ。わかっているだろう? 星を、すこしばかり教会(うち)へまわしてくれればいいんだ。  育ててもらった恩を返したいのだと言えば、うんと頷くさ。  教会守は、にやりと笑ってエトに言います。  エトのお相手は、周辺の町では知らぬ者もいない、名の知れた高齢の資産家です。  祖父のようなひとに嫁ぐことを、どうしてよろこべるのでしょうか。  けれど、自分で身を立てるすべのないエトには、他に道がないのもたしかです。  流れ星に願いごとをしたところで、ほんとうに叶うわけではないことぐらい、もう知っています。  ――結局、神さまなんていないのよ。  そう言いながらも、こうして礼拝堂へ来てしまったのは、十年前の流星群の夜。星の神さまに出会ったからでしょう。  エトにとって、唯一信じる神さま。ヴォワラクテ。  あれから何度、流れ星を見上げて、願ったことでしょう。  一度として姿を見ることはなかったけれど、最後にもういちど、あの紅の髪をしたひとに会いたいと思いました。
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