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瞼を閉じて祈りを捧げていると、ステンドグラスが鮮やかな色で輝きました。
月光ではないまばゆい光が射しこんで、エトは驚いて外へ向かいます。
礼拝堂の裏にある大木。その下に、誰かがいました。
月の光を受けて、無数の星のようにまたたく服をきたひとは、やってきたエトを見て、柔らかくほほえみます。
これはやはり夢かもしれません。
十年前のことを思い出すあまり、エトの記憶が作り出した幻。
「僕たちにとってはわずかでも、人間の十年は長いね」
「…………」
「もう忘れてしまったかい。キミにもらったものを返しにきたんだ」
「忘れてなんて、いないわ」
あのときと、すこしも変わらない姿をした青年が立っていました。
歩いてきた彼はエトの前で立ち止まります。
七歳のころは、うんと見上げなければならなかった顔も、背伸びをすれば届くほどになっていて、記憶よりもずっと精悍な顔をした男のひとに、エトの胸はどくんと音を立てました。
「僕が破った掟は、半人前のくせに外の世界を覗いたことだ。そのせいでいくつかの星が落ちてしまった。僕はあわてて追いかけて、だけどキミの両親の星は落ちてしまって、小さな星だけはなんとか拾うことができた。そう思った」
けれど、小さな星は欠けてしまっていて、不完全な状態。
怒った天の神さまは、半人前のヴォワラクテから名前を取り上げ地に放ち、星のカケラを探してくるように命じたのでした。
「そして僕はあの日、キミに会った。僕が失くした星を見つけた」
「星? わたしが?」
「エトワール。それがキミの本当の名前だろう? 僕が落として、探していた大事な星だ」
赤い髪のヴォワラクテが、エトの手を取って言いました。
「キミが僕に名前をくれたように、僕もキミに名前をあげるよ。エトワール、一緒に帰ろう」
「帰る? どこへ」
「もうすぐ一年がおわってしまう。時間がない。扉が閉まるまえに行かなくちゃ」
だからどうか、僕の名前を呼んで。
懇願するように囁かれて、エトワールは、十年のあいだ胸に秘めていた大切な名前をくちにしました。
「…………ノヴァ」
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