その星の名を呼ぶものは

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 今日はおおみそか。一年のおわりの日。  この日ばかりはみんな家のなかで家族と過ごし、子どもだって夜中まで起きていても怒られない、とくべつな夜。  そんななか、エトは寒い空の下、教会守に命じられて町に出ています。  一年のおわりだっていうのに、星のひとつも持って帰らないなんて。役に立たない子どもには、ヴォワラクテがおしおきにやってくるにちがいない。  ヴォワラクテは、天の星を(つかさど)る神さまです。  そのことから、お金を大切にしないと天罰をあたえる、怖い神さまとしても知られています。教会は町の民からの恵みによって生活がなりたっていますので、ことのほかそれを大事にしています。  教会守の男はいつも意地悪ですが、今日はとくに機嫌がわるいのか、いつにもまして不機嫌でした。  でっぷりとおおきなお腹を揺らして、口元の髭を撫でつけながら、「どんな小さなことでもいいから仕事をして、今夜のうちに星を貰ってこい。金でも食べ物でもなんでもいい」と、エトを外へ出したのです。  けれど、町のひとはとっくに家のなかに入ってしまって、お店だって早仕舞い。  仕事をしようにも、誰もいないし、なにもありません。今年のうちに星をひとつ手に入れろだなんて、とうていできっこないのです。  しかし、なにも手にしないまま教会へ戻ったところで、中へ入れてくれるとはかぎりません。  他の子どもたちだって、できそこないのエトを笑ってばかりいるので、助けてくれるとも思えないのです。  ――わたしはこのまま、凍えて死んでしまうのかしら。マッチを持ってすらいないのだもの、幸せな夢も見られないわね。
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