その星の名を呼ぶものは

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「そんな顔をしないでくれよ。僕はたしかにヴォワラクテだけど、名前を()くして、ちからも()くしてしまったんだ」 「名前はヴォワラクテじゃないの?」 「それは一族の名前であって、僕個人の名前ではないよ。行こう。捕まえるまえに、星が流れてしまう」  ヴォワラクテがエトの手を取ると、なんだか身体が軽くなったような気がしました。  擦り切れたブーツで地を蹴ると、まるで空飛ぶ靴のように加速し、跳ね上がるのです。うまくバランスが取れずに回転する身体を、ヴォワラクテが支えてくれました。まるでダンスを踊るようにピッタリと寄り添って、空中を進みます。 「キミはダンスがとても上手だね」 「そうかしら。絵本を読んで、いろいろなことを想像していた。わたし、空想だけは得意なの」 「なら、きっと見える」 「なにが見えるの?」 「ごらん、たくさんの精霊がいる」  ヴォワラクテに抱えられてターンすると、顔の横をひらりとなにかが横切りました。向こう側が透けて見える、ヒラヒラの服を着た小さな女の子です。  かと思えば、エトの肩口に三角帽子をかぶった小人が乗っていたり、スカートのすそを揺らす風とともに綺麗な女のひとがいたりします。  いつのまにか地面は遠ざかり、二階の屋根が一面に見渡せる高さにまで来ていました。  窓の明かりも、街灯も、ぜんぶエトより低い位置になってしまって、眼前には光の道ができています。  まるで星のようだと感じたけれど、頭上の空も黒く塗りつぶされ、たくさんの星がまたたいていました。  上にも下にも星がある。  空にある星は人間の命だというけれど、地で光る星もまた、ひとが暮らしている(あかし)。命の輝きなのだと、エトは気づきました。
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