その星の名を呼ぶものは

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 ついに頭上から星が落ちてきました。  ヴォワラクテと手をつないでいると、あっというまに追いつきます。銀色に光る星をヴォワラクテが掴んだ瞬間、目の前に知らない景色が広がりました。  まっしろな壁に囲まれた部屋に、おしゃれなテーブル。冠をかぶった女のひとが優雅にお茶を飲んでいます。声は聞こえないけれど、なにかを話しかけてきて、優しい顔で笑います。  そのとき、パチンと泡がはじけるように景色が消えて、もとの夜空に戻りました。 「ひとつわかった。あれは僕の母だ」 「ヴォワラクテのおかあさん?」 「きっとどこかに僕の名前もある」  周囲の星々を眺めながら、青年は顔を輝かせます。  赤銅色の髪が、わずかに赤みを増しました。薄暗かった瞳はほんのすこし明るさを取り戻し、まるで星のように淡い金色になりました。 「この星は、あなたの記憶なの?」 「僕は(おきて)を破ってしまった。天の神が怒って、僕はバラバラになってしまったんだ。そんなことすら忘れていたみたいだ」 「掟ってなに?」 「わからない。だけど、こんなにたくさんの星が降ることはめったにない。今日を逃せばきっと帰れない」  ついさっきまでは、どこか呑気そうにしていたヴォワラクテでしたが、ひとつ記憶が戻ったことで、さまざまな気持ちも取り戻したようです。  家族のところへ戻りたいという気持ちに、エトは胸が苦しくなりました。  馬車の事故で死んでしまったという、顔もおぼえていない家族のことが、頭をよぎります。記憶を取り戻したいという気持ちは、よくわかりました。 「星を捕まえれば、僕はきっと元に戻ることができるにちがいない。そうすれば、キミの願いを叶えてあげられると思う」 「願いを叶える?」 「だってヴォワラクテは、星の神。願いごとを叶えるのも、仕事のうちだ」
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