正しい猫の甘やかし方

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正しい猫の甘やかし方

 初めて吉田葵を見たのは彼女が中学生の時。痩せてヒョロヒョロした子どもだった。何故だが、黒猫とか子猫と呼ばれていた。  葵はさまざまな暴力に晒された。その都度、ぼろぼろになりながら立ち上がった。強い子だと思った。  親父が亡くなり、蕎麦屋のこと、仕事のことを悩む俺にキスしてきて、過呼吸を起こした。泣いて悔しいという。 『私は大輔さんが好きなのに。本当に好きなのに』  うっかり、心を鷲掴みにされてしまった。その時葵は高校生。高校生には手を出せないと葵に告げた。  葵は弱い。真っすぐで、強い。目が離せなくなった。  ストーカーに襲われ、車に乗せられそうになっている葵を見た時、全身が総毛立つ気がした。  誰にも渡すわけにはいかない。葵は俺のものだ。  そんな独占欲に認めざるを得ない。葵をそばに置きたいというこの気持ちを。  いちご狩りの帰りの車中、葵は助手席で丸くなって眠っている。まだ葵は若い。それでも、葵を隣においてこの寝顔を眺めていたいし、笑顔を守りたいと思う。   「いちご狩りは楽しかったか?」  俺は葵を甘やかしてやれただろうか? 自らのストーカーが一家のアイドルを傷つけた責任を感じている、心優しい葵をちゃんと癒せただろうか。 「楽しいよ」  薄目を開けて、葵が見つめる。 「そうか。また、行こうな」  くしゃりと頭を撫でると、猫のように喉を鳴らす。  正しい猫の甘やかし方、覚えていかなければならない。ハグをすればパニクって過呼吸、失神しかねない猫を手懐けるのは、案外楽しいことかもしれない。  
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