6人が本棚に入れています
本棚に追加
天使
私の両親は小学生の頃に離婚した。父の恋愛の結果、母の違う弟がいる。
母も中学生の頃に再婚した。義父の連れ子の傑は義弟になるが、私は義父と養子縁組しなかったので、他人のままである。勿論、お世話になっている身でそんな事は言えないが。
そして、母が高齢出産した。16歳年下の弟だ。私にはいろいろな弟がいる。
この子、陽斗が再婚相手の家に転がり込むように同居を始めた私の心を溶かしてくれた。とにかくかわいい。まさに天使だ。
母は家庭向きの人ではなく、パートで美容師の仕事を再開した。陽斗は保育所に通うようになって思うのは他所様と比べる機会が増えた結果…、やっぱり陽斗は天使だ。
親バカみたいなものだとはよくわかっている。けれど、やっぱりうちの陽斗が一番かわいい。
今日も母に代わって迎えに行くと満面の笑みで迎えてくれた。やっぱり天使だ。
「あいちゃん、ありがとう」
葵のおがうまく発音できなくて、あいちゃんと呼ばれている。ちょっとこしょばゆい。
「あいちゃん、きれい、カッコいい」
陽斗のお友だちの一花ちゃんが目をキラキラ輝かせて私の足にしがみつく。
「ありがとう、いっちゃんは今日もかわいいね」
陽斗の次にね、という言葉は勿論口にしない。一花ちゃんは嬉しそうに私を見上げる。
こんな、毎度のやり取りに保育士さんも笑っている。陽斗は今日も変わりなかったらしい。お礼を言って、陽斗と手を繋いだ。
「今日は私がご飯を作るよ」
「あいちゃん、大丈夫?」
「多分、大丈夫」
陽斗は弟の傑のマネをしているだけで話す言葉に意味はあまりない。でも、落ち込む。確かに料理は得意ではない。
「?」
視線を感じて振り返るが誰もいない。多分、私のストーカーだ。隠し撮りをする、姿が見えないストーカー。
もう何年もいるけれど、姿は見えないから害がないと判断している。
「あいちゃん」
陽斗が私の手を引っ張る。
「僕が守ってあげる」
ニコっと笑う陽斗はやっぱり天使だ。
「ありがとう。陽斗がいたら安心だ」
この天使ともお別れと思うと一人暮らしが躊躇われるけれど、でも仕方ない。
あとしばらく、この天使に守られていようと思う。
「あ、ルーくん!」
「陽斗!」
私の手を振り切って、陽斗が駆け出す。その先にいるのはひとの良さそうな顔をした男性。
ルーくんは陽斗の保育所に時々、読み聞かせに来ていると聞いていた。よく楽しそうに話している。
ルーくんに飛びついた陽斗が満面の笑みを浮かべた。
「弟がいつもお世話になります。陽斗、帰るよ」
挨拶をして、陽斗を呼び戻そうとするが、陽斗はルーくんにしがみついたままだ。
「陽斗、ご迷惑だから」
「いいですよ、お家まで行きましょうか」
「やったー、ねぇねぇ、この間のお話の続きを教えて」
陽斗はルーくんと手を繋いで先を歩く。なんだか楽しそうなのはいいのだが、このルーくんは…。
私の視線に気がついたのかルーくんが振り返る。にっこり笑って、そして陽斗の話に戻っていく、感じの良い人だ。仕方ない、途中までお世話になるか。
悪戯な天使は相変わらずご機嫌だった。
最初のコメントを投稿しよう!