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「あのね新田さん、これはね違う。わけがあるの。野球部は部内で付き合っちゃ、だめな決まりだから」
「瀬戸内夾助……」
お決まりの文句を口にしている私をよそに、彼女はどこか、心ここにあらずな調子で言った。さすがに瀬戸内くんは、珠算どころか、ほとんどの科目で穴がないから、成績優秀者として知れ渡っているみたいだ。対する彼自身は『誰?』みたいな表情でまばたきを繰り返している。
急に、掴みかかる勢いで新田さんが前進を始めた。
「あんたでもいい! 私を助けて。お願いしたいことがあるの」
瀬戸内くんのワイシャツに触れる寸前で、息を荒くしている。
「写真を! 問題の写真を回収してきて」
新田さんの両目は再び、うるんできているように見えた。
「問題の写真?」
とびきりのどかで、静かな廊下に、私と瀬戸内くんの声が重なる。
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