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次の日の昼休み、私は屋上に親友の夢実と、茅織ちゃんを呼んでいた。夢実とは中学校が同じで、ずっと友達。茅織ちゃんとは高校で初めて同じクラスになったけれど、前からの知り合いだったみたいに、仲良くしてくれている。
昨日の新田さんとのやりとりをかいつまんで説明すると、夢実は「ふうん」と、自分のストレートの髪を手で払った。崩した立ち姿になり、細長い腕と脚を組んでいる。
暗がりにいる猫みたいな目が、私を見た。
「で? 桜はそのあと補習、どうしたの」
「戻るのは遅れたけど、二枚目のプリントもちゃんと受けたよ」
「瀬戸内の奴も?」
「だってついてくるんだもん……部室のそばに行くまでいっしょに移動してね。でへへ」
二人にだけは、瀬戸内くんと付き合っているとちゃんと打ち明けてあるので、思い切りのろけられる。
長身でスタイルのいい夢実は、ハーッと息を吐き出したあと、奥歯を噛みしめていた。横にいるほんわか系の茅織ちゃんが、小さく拍手している。その肩の上で毛先が、頷く度に何度も揺れている。
「本当に、桜ちゃんたち仲良しだよねぇ。よかったね」
ありがとー、と、私まで胸いっぱいになりながら答えた。
夢実にも茅織ちゃんにも、私が彼に片想いをしている間は、たくさん話を聞いてもらった。それに今も、心強い味方でいてくれる。卒業しても、大人になっても、いい仲間でいられそうな気がする。
滅多に笑わない夢実が、眉の角度をよりいっそう険しくした。
「新田って身なりが派手で、華やかな分、先生や先輩に目ぇつけられてるでしょう」
『美人の陸上部員』と有名なこの子が凄めば、それなりに迫力が出る。続いてこうも言った。
「元々知り合いでもないなら、言うこと聞く必要ないって。だいたい、問題の写真ってなんなの」
私は「うっ」と言葉を詰まらせた。もちろんどんな写真なのかは、昨日の内に確認済みだったからだ。
「キス写真」
写真の内容を確認している時、新田さんは動じない様子で、ばっさりと言い切った。
「へぇっ?!」
私はこの時もバカみたいに声を上げた。廊下の端から端まで聞こえていたかもしれない。
キ……キスって……瀬戸内くんとはおろか、男子と手をつないだ経験もない私には、刺激の強いワードだった。家族だんらんの合い間に、テレビでお色気シーンが流れるくらいの気まずさが、全身を飲み込んでゆく。
瀬戸内くんは話に聞き入っているのか、妙に静かだった。私たちの様子などお構いなしで、新田さんは話し続ける。
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