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「え?」
間の抜けた返事が戻ってくる。
「無理? 理由があるなら聞かせてほしい」
モテ男子の余裕、という雰囲気でもなく、彼は真剣に問い質してきた。
「むむむむむむ無理だよ私には瀬戸内くんの彼女とか、無理無理無理」
「好きな奴がいるとか?」
好きな相手っていったらあなただからーッと答えるわけにもいかず、私は引き続き頭を振るう。瀬戸内くんは納得いかないらしく、余計に距離をつめてきた。
「試しで、期間限定でもいい」
「お願いだから困らせないで瀬戸内くん」
「嫌がることは絶対にしない」
「まさに今どうしたらいいかたじたじしてて……っていうか思い出して、部の決まりを」
「へえ。宮元は真面目なんだな」
近距離でほほ笑まれたら、私は弱い。顔がますます熱くなる。大好きな瀬戸内くんから、断っても断っても迫られる。春頃の、片想いをしだした直後の自分が聞いたら飛び上がりそうな状況で、私は泣きたくなっていた。
なんで、どうしたら、と押し問答が続く。
結局、私が無事解放されたのは本鈴の鳴ったあとだった。授業が始まっちゃうからと、こちらから半ば折れたかたちだ。
要求の通った瀬戸内くんが、上機嫌で扉を先に出てゆく。私は照れとドキドキで考えがまとまらなくて、手で顔を覆ったまま屋上をあとにする。
せめて引退するまではマネージャーとして、瀬戸内くんを応援する! 片想いでがまん!
と決意して入部したはずなのに。
――――一年生の内から野球部全体を、敵に回しちゃったよぉおおお……!
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