その1

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「ちょっと桜ーっ、起きてんのー?」  一階からお母さんが私を呼ぶ大音声がして、スマホを通学カバンに突っ込んだ。一旦取り出し、音が出ないように設定を変える。商業高校だと妙に規則が厳しくて、電子機器の持ち込みがバレると先生に取り上げられてしまう。  ブラウスとネクタイの上から白い袖なしのサマーセーターをして、食事をして、一時間かけて学校にたどり着いた。グラウンドにまわり、部室のそばにいる同じ一年生と、元気よくあいさつを交わした。みんないつも通りだ。私の目は無意識に瀬戸内くんを探している。  もう来ているのかな。 (遅刻はほとんど、しない人だもんね)  と、ちょうど反対側から、背の高い部員がやってきた。私は瞬時に足をとめる。向こうも私に気づき、立ち止まった。  彼は爽やかにほほ笑んでいる。 「おはよう」  瀬戸内くんは太く落ち着いた声で言った。  ワイシャツの上には学校指定の、同じサマーセーター。おそろいの白。誰にもナイショの会話ができた感激で、私は何も言えなくなった。部内で他にセーターを着てきた人はいなかったから、尚更だった。  そんな感じで朝から二人照れたりした。  あれから約三週間。私と彼の仲は、たぶん悪いことじゃないんだけれど、なんだか意外なかたちで展開している――……
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