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 もし……もしも、あなたはどんな人間かと問われたら、何と答える? 努力家? スポーツマン? 天才クリエイター? 何かしら、これと言えるものがある人が、僕はうらやましい。僕自身は何の才能もない至って平凡な人間だからだ。ただ一つ、他の人にはない特徴を挙げるとすれば、それは……昔から、僕の周りには変わった人が集まってくるということだ。特別に友人が多いというわけでも、人付き合いが良いというわけでもない。「そういう星の下に生まれた」とでも言うのだろうか? 職場の同僚、友人、ちょっとした顔見知り、街でたまたま見かけただけの人……まるで僕が何かの引力を持っているかのように、奇妙な人ばかりが引き寄せられてくるのだ。どのくらい奇妙なのかって? 例えば、そうだな……それなら、昔の友達のことを話してあげよう。これは、僕が高校一年生のときの話だ……。  彼は城田といって、僕と同じクラスだった。基本的には真面目な男だったが、人付き合いを避けているようなところがあり、学校では孤立ぎみだった。しかし、何より人を遠ざけていたのは、彼にまつわる噂だった。彼と同じ中学の出身者の話では、城田には何十種類もの“奇行”があるというのだ。ぴょんぴょんと飛び跳ねるように歩いたり、電柱を見かける度に触りに行ったり、他人と目を合わせることを極端に嫌がったり……不思議なことに、それらはいずれも一日限定で、次の日になるとごく普通の振る舞いに戻るというのだった。  僕が城田と話すようになったのも、彼の奇行がきっかけだった。彼は教室で僕の隣の席に座っていた。数学の授業中、教師が黒板に書いた計算式をみんなが写し取る中、ふと彼のほうを見ると、彼はなぜか両手にシャープペンを持っていた。彼はまず右手でいくつかの文字かを書いたかと思うと、続けて左手で文字を書いた。そしてまた右手と、彼は左右の手を切り替えながらノートに書き取っていたのだった。  僕は休憩時間になってから彼に話しかけた。 「城田くんさあ、さっきたまたま見かけたんだけど……なんで両手使ってノート書いてたの?」  すると彼は、こんな質問は慣れっこだと言わんばかりに、いかにも面倒臭そうに答えた。 「ああ、あれね……まあ、大したことじゃないんだ。気にしないでいいよ」  それきり会話は終わってしまったものの、それ以来、僕は彼に興味を持つようになった。彼を観察するのが楽しくなったと言ったほうが正しいかもしれない。それから一ヶ月ほどの間に、僕はひそかに彼の奇行を三つか四つばかり発見していた。それはちょっとしたパズルを解いていくような感覚で、僕の日常のささやかな楽しみのひとつになっていた。  ある日の休憩時間、彼は僕の席の前に立って言った。 「もう降参だ、降参」  .僕が呆気にとられていると、彼は呆れ顔で続けた。 「分かってるよ。俺が何か変な動きしてないかどうか、面白がって見てるんだろ? 落ち着かないからやめてほしいんだよ。理由を知りたいんなら話してやるからさ」  そうして彼は奇行の理由を僕に話してくれたのだった。  彼には悪魔が取り憑いているのだという。悪魔は夢の中に現れて、彼に対して一つの課題を出す。目が覚めてから日付が変わるまで、彼がその課題を実行できれば彼の勝ち。実行できなければ悪魔の勝ち。つまり、彼がこれまでに見せた奇行の数々は、全て悪魔に出された課題だったということだ。 「こんな話、信じないだろうけどな。頭のおかしい奴だって、お前もそう思ってんだろ?」 「いや……信じるよ」  僕は城田に出会うよりも前から、常識では考えられないような不可思議な出来事を目にすることがあった。だから、彼の言うことが真実だったとしてもおかしくはないと思えたのだ。もちろん、彼の妄想の産物ということもあり得るだろう。それで、この時点で僕は半信半疑——文字通り半分ずつ——だった。少なくとも、彼の心底うんざりした表情を見る限り、僕をからかおうと嘘をついているようには思えなかった。 「もし、課題を守れなかったらどうなる?」  僕は尋ねた。すると、彼は自分の右耳を指で差して言った。 「俺はこっちの耳が全く聞こえないんだ。最初、俺はこんなこと信じてなくて、課題なんて守るつもりもなかったよ。誰だってそうだろ? そしたら次の日の夢の中で、悪魔は俺の右耳をつかんで引きちぎったんだ。奴は笑いながら言ったよ。これはただの警告だって。次に守れなかったら、お前の全身を奪ってやるって……。目が覚めてみると、ちゃんと耳は残っていたけど、音が全く聞こえなくなってた。俺はそこで初めて信じるようになったのさ」
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