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もふもふの世界
柱の影でガッついてる奴らを横目で見ながら、俺は呆れて舌打ちした。耳の良い奴らだから、チラッと俺の方を睨んだけれど、俺の顔を見ると慌ててそそくさと立ち去った。
舌打ちされたくらいで引き下がるのなら、最初からあんな場所で盛ってるんじゃないよ、と思うのは俺だけなんだろうか。つるんでる友人は、俺が発情期が遅いせいで、情事に頑なになってるとよく言うけれど、好きで遅らせてるんだ。誰にも内緒だけどね。
ほら、考えただけで、ひとりやって来た。あいつは存在そのものが派手だ。
「ゆきちゃん!おはよう?」
そう言いながら後ろから羽交い締めしてくるのは、俺よりもひと回り大きい椿だ。派手な男なのに椿とはね。椿といえば清楚な美しい和風の花木だ。まぁ、こいつが綺麗じゃないとは言えないけど。今朝も明るいミルクティー色の髪を肩まで艶めかせてる。
「ああ、はよ。お前、今朝はハーレム連れてないのか?」
俺が首に巻き付いた椿の大きな手を掴んで退けると、椿は口を尖らせて言った。
「だって、ゆきちゃんが節操がないって昨日俺を睨んだんじゃない。だから昨日ハーレム解散したんだよ?」
俺は拗ねる様子が可愛いなと思いながら、椿の鼻を摘んで言った。
「お前が、節操が無いなんてのは昨日に始まった事じゃ無いだろ?何で急にそんな事してる訳?俺の言うこと気にすることないじゃん。」
椿は俺を横目で見ると、言いにくそうに小さい声で言った。
「だってさ、もうすぐゆきちゃん、発情期来るかもしれないって聖が言うからさ。俺、ゆきちゃんの発情期に、絶対側に居たいんだよね。」
俺はため息を吐くと、呆れて言った。
「なに、お前俺の発情期に備えてるって訳?
残念でした。聖の予想も検討はずれも良いとこだよ。俺はまだ全然だから。俺にかまけてないで、またハーレム結成したら?別にお前がハーレム作ろうが、止めようが、俺には関係ないんだし?」
「ゆきちゃん…。でも、自分の発情期なんて、そんなに確証持ってまだ来ないなんて言えるかな?あんなのいつ来てもおかしくないでしょ。」
俺はまだ絡んでくる椿をシカトして、教室に入った。椿はまだ教室の扉の所に立って、俺に何か言いたげだった。けれども取り付く島も無い俺をじっと見つめてため息をつくと、諦めたのか隣のクラスへ向かった。俺は横目で椿の後姿を見てため息を吐いた。
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