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さて、25年前の曲を繰り返し聴いて予習(復習?)した多恵は、意気揚々とボイトレにやってきた。
「多恵ちゃん~!」
「史子、久しぶり!」
オファーを受けてから1週間後。都内のスタジオである。
相方の『ルミ』こと史子も一緒だ。
「史子、今日子どもは?」
「学校行っているから大丈夫ー。ねえねえ、こんなに久しぶりで歌えるかなあ、心配」
ルミルカは可愛いふわりとした天然系雰囲気のルミと、お姉さんタイプのルカの二人のユニットだ。
ぎすぎすしたアイドル達も多くいたけれども、ルミルカは仲が良く、解散後も史子と頻繁に連絡を取っていた。
「じゃあ始めましょー」
自分たちよりも一回りは若いトレーナーに声をかけられ、スタジオに入る。
このスタジオは事務所お抱えのようで、多恵たちのレッスンは1回30分、本番まで3回だけだ。
ヨガスーツのようにぴったりとした服に身を包んだトレーナーがしゃきしゃきと発声練習を促す。ずいぶんと元気で明るい。
少し声を出し、多恵は若干の焦りを感じた。
やばい。思った以上に声が出ない。というか、音程が安定しない。
史子も同じ感想だったようで、そっと二人は顔を見合わせた。そのまま恐る恐るヨガスーツに視線を向ける。
すると二人の不安に反して、彼女は拍手して大きく頷いた。
「おー、結構いいですねー! いけますよー!」
「ええっ!? 大丈夫ですか?」
「十分、十分。ただ音がぶれないようにするのと、久しぶりだと1曲持たせるの大変ですから、そこだけちゃんと練習しましょうか」
それは多恵も感じたことだったので、頷く。ひどくほっとして、史子と息をついた。
昔はトレーナーに怒鳴られたり叩かれたり、トレーニングと称して腹に石を乗っけて腹筋させられたりといった無茶が日常茶飯事だったのに。
これがすなわち昔取った杵柄か、と頬が緩んだ。
しかしやはり少し歌うと息が上がる。
ジム通いの日数を増やさねば、と多恵は心の中で思った。
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