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『年末!大復活!』
いよいよ当日を迎え、楽屋で待機していた多恵は硬直していた。
楽屋内は混沌を極めている。
集まっているのはお笑い芸人、アイドル、歌手、タレントといった芸能人。だが、どの顔も追いつめられている。
真剣に、必死に、歌や振りあるいはネタを練習中だ。
多恵は番組の趣旨を理解した。
どうやら過去を懐古しようというわけではないらしい。
いや、番組はそうなのかもしれないが、少なくとも参加者はそうではない。
この番組で一発当て、再度表舞台に立つ。人生をかけて臨んでいるように見える。意気込みが違う。
多恵と史子はそこまでの野心はなかった。
やる気はあったし、これを機に誰かの目に留まればラッキーという気持ちはあったものの、人生崖っぷちという状態ではない。これが終われば元の日常に戻ることは出来るし、実際そうなるだろうなという気がしている。
しかし、再起をかけた周囲の熱意に圧倒され、二人は大変戸惑った。なんだか場違いな気がする。
「史子、あっちにいよう」
「うん」
リメイクした衣装はなんとかなった。首元のチェックのスカーフには史子が持ってきた大きな薔薇が咲いている。本物だ。
黒のジャケットに赤の巻きスカート。黒のレギンスに大きめのスニーカーを合わせた。
二人が壁に沿うようにぴたりと立っていると、見覚えのある男が楽屋に入ってきた。近くにいた少女3人組が男を見つけて慌てて飛んでいき、ぺこぺこと頭を下げている。
よく見ると、『ルミルカ』が現役だった頃から少女ばかり集めたアイドルを手掛けている、有名なプロデューサーだった。同じように思い出したらしい史子が「うわ」と嫌なものを見たように声を漏らす。
少女たちに激励した男は多恵たちに気付き、手を上げて近寄ってきた。慌てて笑顔を作る。
「ルミルカじゃない? 久しぶりだねえ」
「ご無沙汰してます。結成25周年で出させて頂くことになりまして」
「へええ、格好いい衣装じゃない。もういくつになった?」
「ええと、4……43です」
危ない危ない。当時から2歳サバを読んでいたのだった。
男は「頑張ってね」とだけ告げて去ったので、二人は頭を下げて見送った。
「相変わらず気持ち悪かったね、多恵ちゃん」
「しっ、聞こえるわよ」
頭を下げたまま顔を見合わせ、二人はくすりと笑った。
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