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君とのラストデート
スマートフォンを充電器と接続し、そして机の上へポイッとやや雑に置く。
時刻は23:30。人によって感覚は大きく異なるだろうが、一般的には深夜近くとされる時間帯だ。外出するのはあまりよろしくない。特に冬は、肌を刺すかのような寒さがあるので尚更外へは出ないだろう。
だが、それでも俺は外へ出る。絶対に外せない、何よりも大切な予定が俺にはあるのだ。
防寒対策を施して玄関の外へ出て、そのまま階下のエントランスまで降りる。
エレベーターホールを抜けて、自動ドアを通り抜け。その先にあるマンションの入り口前に、少し透き通った君は待っていた。
やや茶色がかったセミロングスタイルの髪の毛。絹のようにきめ細かく、シミが一つも見当たらない美しい肌。パーツが完璧なバランスで配置された顔。スラっと伸びた手足。
絶世の美少女と言う言葉が誰よりも似合う彼女は、その全てを俺だけに向ける。
「何時までも待ち合わせは良い物だね。何回やっても、心がドキドキしちゃうよ」
ああ、俺もそうだ。何十、何百、何千とやってもこの心臓の早鐘は鳴り止まないし、くすぐったい幸福感は消えない。
思った事をそのまま伝えると、彼女はクスリと笑みを溢した。月明かりに照らされた彼女の微笑は幻想的で、かつ魅惑的であった。その笑顔に気が付く事が出来るは、世界中を探してもこの俺ただ一人だけであるが。
「行こっか。最後のデートに」
何の躊躇いも見せずに差し出された彼女の手を、俺もごく自然に握る。ゾッとするぐらいに冷たい生者の熱が消え失せた手を温めるように、強く、しかし優しく。
時間にしておよそ三十分だけ。しかし、どんな出来事よりも濃く心に残る、幽霊となった幼馴染みとの最後のデートが幕を開けた。
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