12107人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごゆっくり…だって」
「だってな?」
そう笑いながら靴を脱いだ征二は
「腹減った…」
と続けた。
「野菜炒めしかないよ」
「いいよ。米と玉子ある?」
「ある」
「卵かけご飯する」
「うん」
彼は手慣れた様子で花粉を纏ったスーツの上着をハンガーにかけると、一旦座りかけてから立ち上がりスーツのポケットに手を入れた。
「紫乃のデザート」
彼が小さな座卓に置いたのは、春限定のストロベリーチョコ。
「ありがとう、征二」
彼との出会いは、私が社会人1年目の初夏のことだった。その日、仕事中に予定外の生理が始まった私は鎮痛剤を飲むのが遅れた。そして早番だったため、帰りはぴったり帰宅ラッシュに電車に乗ったのだが、暑さとお腹の痛さとで異常に汗が吹き出てきたのを感じる。
ヤバい…マズイ…倒れる?呼吸が浅い…
あまりの体調の悪さに自分の駅よりひとつ手前で、大勢の人に流されるように電車を降りた。
「大丈夫?医務室?救急車?…大丈夫?」
声を掛けてくれたのが水戸征二。4歳年上の私の彼だ。
最初のコメントを投稿しよう!