double punch*ダブルパンチ

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「ごゆっくり…だって」 「だってな?」 そう笑いながら靴を脱いだ征二は 「腹減った…」 と続けた。 「野菜炒めしかないよ」 「いいよ。米と玉子ある?」 「ある」 「卵かけご飯する」 「うん」 彼は手慣れた様子で花粉を纏ったスーツの上着をハンガーにかけると、一旦座りかけてから立ち上がりスーツのポケットに手を入れた。 「紫乃のデザート」 彼が小さな座卓に置いたのは、春限定のストロベリーチョコ。 「ありがとう、征二」 彼との出会いは、私が社会人1年目の初夏のことだった。その日、仕事中に予定外の生理が始まった私は鎮痛剤を飲むのが遅れた。そして早番だったため、帰りはぴったり帰宅ラッシュに電車に乗ったのだが、暑さとお腹の痛さとで異常に汗が吹き出てきたのを感じる。 ヤバい…マズイ…倒れる?呼吸が浅い… あまりの体調の悪さに自分の駅よりひとつ手前で、大勢の人に流されるように電車を降りた。 「大丈夫?医務室?救急車?…大丈夫?」 声を掛けてくれたのが水戸征二。4歳年上の私の彼だ。
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