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二.
「……いや、それでもやっぱり塚原と付き合えるってことでは無いと思う」
「なんで?これさぁ、筋肉の描写を随所に入れたリアリティが高く評価されたんだよ。さすがに彼女のハートにも届くでしょ」
「そういうことじゃなくてな」
などというやり取りの間にも教室には他のクラスメイトたちが揃い始め、僕らの方をチラ見しながら、
「うわぁ、また……」
「こわ……」
などの感嘆を漏らしている。
そしてやがて、ついに、彼女、塚原芽衣李が姿を現した。
あぁ、今日も、どちらかというと小柄な彼女は、長い長いストレートの黒髪を後ろで一つに結び、大きな瞳、真っ白な肌、半袖から覗く腕もスカートの下の足も、その肉体に無駄な物質など一つも存在しないような、マナエス先生の描く格闘系美少女そのものだ。
彼女は表情一つ変えずに真っ直ぐに自分の席、僕の方へと向かってくる。
っと、その美しさに見とれている場合では無い。
「塚原!僕の小説が新人賞を獲って書籍化されたんだ!筋肉が数値化された異世界で筋肉隆々の筋肉戦士たちがものすごいバトルをして世界を変えていく話なんだよ!筋肉の描写とか超細かくてさ、何しろ本当は塚原のために書いた話だし、絶対面白いし気に入ってもらえるからさ!とにかく読んで欲し……」
「へー、おめでとう。どけてくれる?邪魔なんだけど」
塚原の無感情な視線が僕を射抜く。
「え、あ、いや、この本、塚原にプレゼントなんだけど……。特典にこのダンベルも付けるし……」
「読まないしいらない。どうせまた現実性のかけらも無いファンタジーで、筋肉の描写とかだって漫画みたいなメチャクチャなやつなんでしょ?あたしの筋肉はバトルとかそういうためのものじゃないの。あたしはもっと現実的な、美しく健康的な肉体を追求してるんだって、ずっと言ってんじゃん。ほら、授業始まるから」
ちょうど鳴り響いたチャイムに、塚原は机の上を顎で示した。
やはり、彼女は、手強い。
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