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四.
長い長い黒髪を揺らして、リュックを背負ったジャージ姿の可憐な少女が家から走り出す。
ここから学校までは歩いて十五分程度。
現在まだ始業時刻の一時間も前であり、少女は決して遅刻しそうで焦っているわけではない。
僕は知っている。
これは、彼女が一日も欠かしたことの無い日課なのだ。
彼女は毎朝必ず、いかなる荒天であろうとも、家を出ると学校とは反対方向の時任川へ向かい、川の堤に敷かれている片道七キロのサイクリングロードを一往復してからようやく登校の途に就く。
そして彼女の軽快なステップからは想像もつくまい、そのリュックの中に二十キロの重りが入っていることなど。
「堅忍果決の極み……美しい……」
つぶやきながら手元のスマホで地図を確認すると、彼女の後ろ姿を見送り、僕は脇道へと自転車のペダルを踏み込んだ。
この周辺は意外と車の往来も多い危険な住宅街だ。
こんな所で彼女に絡むのは、彼女や僕だけでなく、車や近隣住民の皆様にも以下略。
カラスなどの鳴き声がのどかに響く、朝早くの人けもまばらなサイクリングロードにて、先回りして彼女を待っていると、予想した通りの時間に、彼女が堤を駆け上がってきた。
彼女は僕に気が付いたようだが、まるで路傍の石のように僕を捨て置いたまま走り去って行く。
「そうだ、ハイパーストイックの君はそれでいい。さにあらば、ここは僕が君の速度に合わせればいいだけのこと……!」
僕は一人強く頷くと、自分の作品ページを表示したスマホを握り締め、自転車を漕ぎ出し彼女の後を追った。
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