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ルピシエ市が独立して50年を迎えたこの日、ルピシエ市警察署は服用者によって襲撃された。独立記念日、服用者、と共通点の多さから、規模こそ違えど市民の多くはかの『アヘン事件』を彷彿とさせたに違いない。だがルピシエ市警察署は驚くべき成果を上げる。
犯人である服用者を確保し、かつ死傷者は警察記者共に0、そして命を狙われた署長ですら無傷でその後の会見に臨んだのだ。
「3年を経て、我々は悪魔への初勝利を収めた」
圧倒的な力の差で我々には為すすべもなかった服用者との力構造が初めて瓦解した瞬間であった。服用者に報いた一矢は市民に大きな衝撃を与え、それは彼らに消えない恐怖を与え続けた3年前の事件からの前進であり、確かな希望となっただろう。
続いて、署長は此度の事件鎮圧に大きく貢献した組織がある、と述べる。長年水面下で活動していた魔薬取締班の存在を認めたのだった。
ただ、服用者の警察という存在が公になったのはまさにこの日であるが、対服用者専門の組織が警察内部に存在するという事実のみが明かされ、それ以外の詳細は謎のままである。
だが、今日の功績といい、謎の多い組織像といい、悪への抑止力としては絶大な影響を与えたであろう。
この街には秩序を守る最強の盾がいると。
それは市民にとっても心の拠り所となったであろう。
ただこの発表に至るまでの間に、一人の刑事の運命が狂わされていることを人は知らない。
この日、エマ・ド・リュクサンブールは刑事の任を解かれた。
1話 吾班はねこである end
夢であった花形の刑事を追いやられたエマは、ルピシエ市警察署内の一つのドアの前で立ち尽くしていた。
ドアの横には『Civil.Assist.Team』と彫られたプレートが小さく下がっている。ここがエマの新しい職場というわけだ。
この一歩を踏み出せば、もう二度と刑事には戻れないような気がする。でもそれでもいいから、と署長に懇願しこの仕事にしがみついたのはエマだ。今も腰に下がる刑事の矜持たる剣は、いつ消えるかも分からないただ一つの希望であった。
ノックをし、部屋に入ると、正面の大きな窓が目に入った。日差しをいっぱいに部屋に取り込む大窓を背に立っているのは、垣根越しにみたあのサングラスの刑事、ナターシャだ。
ただ今は、彼女の顔を隠すものはなにもない。
彼女はエマを見止めると、目を細めて笑った。
「C.A.T.へようこそ。ま、来たくないって顔のようだけど」
→2話 VVを着た悪魔
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