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椿は、筑紫のことを話した。けれど、合コンの自己紹介のときに筑紫は自身のことを何も話さなかったため、椿が感じ取ったものが具体的に何であるかを鶏頭に説明できなかった。
「あの学校にそんな子がいたんだ。でも、確信はなし、と」
「はい。鶏頭さんは梛木筑紫、どう思いますか」
「どう思うって、アンタの説明じゃ何もわかんないよ」
「ですよねぇ……」
「それじゃあ、女の子は? イザナギノミコトが人間になっているっていっても、男とは限らないんじゃないのかい」
「いえ、命を受けたときに説明されました。イザナギノミコトは人間の男性になっているって。でも、これ関係ない話なんですけど、クラス委員長の女の子が、ですね、その……」
「その子がどうしたんだい?」
「何というか、すごい子で。和田清姫って名前の子なんですけど、まず名前からして華やかですよね。自分のことをよくわかっているっていうか、とにかく強い子です」
「ワガママなの?」
「いえ、そういうわけではないですよ。意思はハッキリしていますけど、どちらかといえば気遣い上手なんだと思います。でも、とにかく嵐みたいな子なんですよ」
「話を聞いているぶんには悪いところは何もないように見えるけど……」
鶏頭がシャインマスカットを摘まむのと同時に、インターホンが鳴った。彼女は食べるのを諦めて一階のモニターを操作しに行く。そこには椿と同じセーラー服の女の子がうつっていた。少女はマイク越しに「花岩谷さんに、学校からの届け物でーす」と言った。鶏頭は返事をすると、椿の部屋まで駆け上がり、状況を伝える。
鶏頭は心なしか、頬がゆるむのを感じていた。噂の清姫が向こうからやってきたのだ。それも鶏頭の想像よりも可愛らしい声と姿だった。鶏頭は、椿に人間の友人がいることを知り、なおかつそれを善いことだと思っている。
「噂をすればクラス委員長だってさ」
「……和田さんですね。私が出ます」
嵐とは、いつも突然やってくるものである。けれど、それを実感する日が来るとは思わなかったと、椿は頭を抱えるのだった。
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