はじまり

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〇  学校には、クラスというものがあって、そのクラスには、クラス委員長という最高権力者がいるらしいと、椿は知った。それは入学時の成績によって選出されているようである。そして、六限目の「総合」と呼ばれる授業は、初日に限り、そのクラス委員長に一任されたらしい。  姫カットのクラス委員長が教壇に立って、お辞儀をした。 「和田清姫です。中学のときから色々言われたんだけど、本名です。和歌山県田辺市に生まれたから、親が安珍清姫伝説からそのまんまつけちゃいました。ヤバい親でしょ? で、好きな男性はー、昔近所に住んでて、今は就職して出ていっちゃった年上の安藤くんです! 自分の名前ってあんまり好きじゃなかったんだけど、この名前に生まれたのと安藤くんが安藤って名字だったおかげで一生ネタに困る気がしないので、安藤くんを好きになってからは気にいっています。田辺の和田清姫って覚えてね! よろしく!」  清姫は、一息で言った。彼女の自由奔放な振る舞いに、椿だけでなく、多くの生徒が胸をなでおろした様子である。厳格な生徒に権力を握られては窮屈だからだ。  椿は黄泉の国での日常生活の記憶を手繰り寄せるけれど、清姫のような根の明るい女の子の知り合いはいなかったと断言できる。もし清姫のような子がいたならば、入れ替わりの激しい黄泉の国でも、きっと忘れることはできないだろう。  そして、彼らの安心は、清姫の次のセリフによって霧散することになる。 「この時間は、本来は委員会決めなんだけど、好きに使っていいと言われています。とりあえずジュース持ってきたので――今から合コンを、しようと思います! 机をくっつけて、男女別に坐ってね! 合コンみたいに!」  清姫が何を言ったのか、ほとんどの生徒がわかっていない様子であった。そのことに椿は安心する。彼女は合コンというものを知らない。というか、ほとんどの高校生は、そんなものは知らないのである。だから、坐れだの自己紹介しろだの言われても困惑するばかりであるし、普通に委員会決めをしてほしいと思っている者がほとんどだ。  しかし、椿はまったく違うことを考えている。イザナギノミコトを探す手がかりが掴めるかもしれない。好機なのだ。うつしよ慣れしていない椿は、ここを逃すと次回の学校行事まで男子生徒と関わる機会を作れないかもしれなかった。  椿は、とりあえず派手そうな女子の隣に坐った。偶然、目の前に坐った男子を見る。そのとき、椿のなかだけで急展開が起こった。
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