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☆
参拝を済ませ、賽銭箱の前から逃れる。
境内にはテントが出ていて、通常の売店だけではなく、あちらこちらでおみくじやお守り、破魔矢が売られていた。
そんなものもとりあえず俺たちに用はないと、下へ降りる階段を目指そうとするが、
「大吉だぁ」
雑踏や祝詞に混じって、その声だけはやけに大きく聞こえた、記憶の深くにまで刻まれた架純の声だ。
愛しい人の声が懐かしいと、思わずそちらを見てしまった。
おみくじの内容を見て喜んでいた、彼を見上げて微笑む顔にこちらまで嬉しくなってしまう。そんな気持ちを自覚して慌てて視線を逸らせた。
幸せそうでなによりだと思う反面、恨めしい気持ちにも苛まれる。お前は俺の苦しみを知らない。
「おみくじくらいするか、年初めの運試し!」
歩き出した三井さんのあとについていく、架純から離れる方向でほっとした。
「200円、と。ほい、たかっち」
巫女が差し出したおみくじを手渡してくれる、いや、自分で取らなきゃ意味ないし──と思いつつもそれを見た。
「──末吉」
ふたり揃って呟く、番号は違うが同じとは──いや、悪くはない、ここには人生の指針が書かれているんだ。
「お互い、待ち人は来ないようだな」
俺の手元を見た三井さんはいう、まあ、こんだけ後ろ髪引かれてたら、いても気づかないよな。
「お、お神酒だ! もらおうぜ!」
たったひとつだけ、お神酒を配るテントがあった。
「三井さんは運転でしょ、やめとけよ」
「1杯くらい平気だって」
「駄目だって。俺もまだ酒が抜けた感じしないから、運転は変われないぞ」
ともかくその場から離れようとするのに、三井さんに腕を掴まれた。
「あんなの一口だろ、あんな量ならすぐ抜けるよ、すぐに運転しなけりゃいい。飲んだらちょっと散策でもしよう、小町通りブラブラするか、あ、海にでも行く?」
飲みたい口実だけはサクサクと浮かぶらしい。
「冬の海なんか冗談じゃないし、三井さんとなんかもっと冗談じゃないし」
「んもう、たかっち、かわいいな!」
そんなことをいって三井さんは俺を見たまま無理矢理腕を引き、お神酒を受け取る列へ向かおうするが、人ごみだ、人に思い切り体当たりしてしまった。
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