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「きゃ……」
女性の声、しかも、この声は──。
「すみません!」
三井さんが慌てて謝り頭を下げた向こうにいたのは──架純!
「架純、大丈夫?」
腕を組んだ男が気遣う、三井さんはペコペコと頭を下げていた。
「うん、平気。あの、大丈夫ですか……ら」
いう架純が俺を見つけた、瞬間目を見開き息を呑んだのがわかった。
これがあからさまに嫌悪など含んでいれば、他人のふりをしてやり過ごすが──そんな可愛い反応、俺、期待するよ? 口元が緩みそうになるのは懸命にこらえた。
でも目は反らせない、お前の視界にいると思ったとたん、時が止まった。音は消え、人々すらいなくなった気がする。この世にふたりきり、そんな気持ちになるなんて。
今だって忘れられない大切な人が、手を伸ばせば届くところにいる──だが架純は再度俺を見ることなく、男と寄り添い歩み去った。
一声かけてしまえばよかった、懐かしいな、元気だったかくらいいっても罪にはならなかっただろう。
「たかっち?」
覗き込むように呼ばれてはっとした、架純の背を見つめていた。
「なに? 知り合い?」
勘が良すぎる、俺は頬を掻いて誤魔化しながら答える。
「元カノ。もうずいぶん前に別れた」
そうだ、もう1年以上前だ──センチメンタルにもほどがある。
三井さんはふうん、とつぶやいただけで、それ以上は聞かなかった。久々に会った元カノに挨拶すらしなかった理由など、聞かなくてもわかるのだろう。
俺は顔になんとか笑顔を張り付ける。
「なんか一杯やりたい気分だな、お神酒、飲もっか」
「お神酒とは、そういう目的で飲むものではない」
真面目くさったことをいいながらも、三井さんはお神酒をもらう列へと向かう。
人々の笑い声と途切れることなく鳴り続ける拍手と鐘の音──そうだな、せっかくの新年だ、俺も今年こそ、新しい恋を始めるか。
〜 to the 3rd story 〜
https://estar.jp/novels/25918408
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