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【君との再会】
スマートフォンが震えている、うるせえと思いつつもその画面を見た。
通信アプリのアイコンと『みっちー』の文字にため息が出る、会社の先輩だが、良くも悪くも仲がいい。出ようかどうしようかと悩んでいる間に振動はなくなった、ほっとしたのも束の間、再度震え始める。
これはきっと何度も鳴る……諦めて着信ボタンを押した。
「──はい」
『あけおめ! たかっち! 元旦だよ!』
明るい声に気が滅入る、もう元旦じゃねえし。
「あけましておめでとうございます」
『今どこ!?』
「家」
『おんや? 朝までコース、いやいやそのまま夜までコースかと思い、お邪魔の電話でもしてやろうと思ったのに、既にご帰還!?』
「うるせえなあ」
俺だってそのつもりだった、いや、夜まではないけど。
『んだよ、不機嫌だな、はっはーん、フラれたか! ざまあみろ!』
帰省はしない旨は伝えてあったので、初日の出ドライブでもするかと誘ってくれたのを断ったのだ。それを根に持っている口調だ。
「振られちゃいないけど──」
そもそも相手は会社の同僚、千春さんだ、振られたも何もないが、怒らせてしまったようだ。
気の置けない相手で、料理も酒もおいしくてつい飲みすぎた。初めてお邪魔した家で酔いつぶれて眠ってしまったことに怒ったのだろうか、結局年を越す前に追い出されてしまった──いや、酔いに任させてなにか口走ったんだろう、『会いたい人が人がいるなら、今すぐ会いに行け』と促されたんだ。失恋について管でも巻いたか……未練たらたらもいいところ。申し訳ない、あとでお詫びのメッセージを送らねば。
『でも元気ないじゃーん、はっはーん、本当はカノジョと過ごしてるん……』
「単に二日酔い」
というより、まだ酔いが残っている。本当に飲みすぎた。
『ふーん、じゃあさ、朝飯食おうよ、出て来いよ』
「朝飯~?」
壁掛け時計を見た、もう昼に近いが。
『おごっちゃるから。独り身同士、仲良く新年を祝おうぜ』
そんな言葉に俺は苦笑いが出た、どうせ独り身だよ──と、窓の外からクラクションの音がする、それは耳に当てたスマホからも聞こえた。ベランダに出て見れば三井さんが車の運転席側の屋根に頬杖をついて、スマホを耳に当ててうちを見上げていた。
『あ、ほんとにいた。俺の誘いを断っておきながら、なんでいんの!?』
それはこっちのセリフだ、俺が帰宅してるのを知っているわけじゃないだろうに、なんで迎えに来てんだよ。
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