4人が本棚に入れています
本棚に追加
体を左右に振り、フットワークでフェイントを繰り返しながら懐へ潜り込んだ。
「セイ! 」
練習していた、左右の突きから下段廻し蹴りに繋げる、ワンツーキックを見舞った!
見事にヒットした!
だが相手もカウンターを取ってミゾオチに前蹴りを返す!
「ぐうっ! 」
体を捻って衝撃を逃がしたが、技の思い切りがいい。
そのまま捻じる動きを繋げて鍵突きで脇腹を捉えた!
だが同時にカウンターで中段突きをモロに食らった!
「はあっ、はあっ! 」
こういうヤンキーっぽい風体の道場生は多いが、大抵思い切りよく攻撃してくる。
そして、ナチュラルに強い。
利行は、ことごとくカウンターを取られ、攻め手を失った。
「それまで! 」
「押忍! ありがとうございました」
こうして、オレンジ帯を貰った。
体はいつも痣だらけだったが、心は満たされた。
死んだようになって彷徨っていた、利行の魂は復活したのだ。
「飲みにも行かないし、車も持たないし、結構金は貯金できてるな…… 」
実家に帰り、パラサイトをしはじめたためか、さほど出費もなかった。
「空手の勉強をしながら、再就職へ向けて準備していけばいい…… 」
打ち込むものができると、精神的に安定してくるものだ。
心の不安も消え、空手のことを考える時間が増えた。
体を極限まで追い込み、組み手が上達することだけど考え、家でも基本稽古を欠かさず繰り返す。
「ねえ。我卦くん。空手やってるんだってね」
職場でもその話題で、いろんな人から声をかけられるようになった。
「空手が自分を前向きにしてくれた。まだまだ始まったばかりだが、できる限り続けていこう…… 」
今日も近所の公園で、一人稽古に励む利行の姿があった。
了
この物語はフィクションです
最初のコメントを投稿しよう!