【小説】なぜ、これほどまでに、のめり込むのか

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 入口を入ると、もう一つドアがある。思い切って開けてみた。  激しい運動をしたときに出る、独特の汗のにおいが沁みついている。  床はマットが敷かれていて、しっかりした作りに見えた。 「あのう…… すみません。見学させていただいても、よろしいでしょうか」  近くにいた、青い帯を締めた道場生に声をかけた。  その道場性は、入り口側にある小さな部屋へ入ると、丸坊主の黒帯を締めた師範代らしい男を連れてきてくれた。 「見学希望ですね。どうぞ。こちらへ掛けてください」  背は高いが、まるで少年のような笑顔をたたえる、自分と同い年くらいの青年だった。 「運動の経験はありますか? 」 「昔、ちょこっと空手をやりました。最近はジムで筋トレをしています」 「おお。そうですか。じゃあ、アンケートに答えてください。もし入門を希望されるようでしたらお手続しますので、お声がけください」 「はい…… 」  しばらく待っていると、続々と道場生が集まって来る。 「押忍! 押忍! 押忍! 」  皆元気よく、お互いに向かい合って挨拶し合っていた。 「では、帯順に並んでください…… 」  さっきの師範代が、神棚の前に立っている。 「不動立ち。ほらタクミ。掛け声掛けて」  右前が一番上らしい。  ひょろっとした、あどけない顔をした少年が呼ばれ、声を出した。 「押忍! 本日の稽古をお願いします」 「神前に礼! 正面に礼! お互いに礼! 」  ここまで何回礼をしたのだろう。  すべて気合いをかけて、頭を下げてきちんと礼をしている。  何かに熱中している、という気迫をビリビリと感じた。  師範代の拳は、黒い拳だこができていた。誰もが基本を繰り返し、移動、形など決まった動きを誠実に繰り返そうとする。  初心者らしい、白帯の人たちも一生懸命に上級者の動きを真似て食らいついていく。 「ああ。こんなにひたむきな時間を過ごせたら、自分も復活できるんじゃないだろうか…… 人生が充実したものになるんじゃないか…… 」  何か、自分が求めているものがここにある気がした。  結局利行は、最後まで稽古を見てしまった。  本物の情熱を感じた。  何もしていない自分にも熱が伝わって、身体が火照る気がした。 「入門します。手続きをお願いします」  そのまま入門手続きを済ませた。  翌週には道義が来るということだったので、楽しみにしていた。
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