【小説】なぜ、これほどまでに、のめり込むのか

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「ジムで鍛えていなかったら、効いていたかもしれない…… 」  そう思う一撃もあった……  こうして初日の稽古を命からがら終えた。  また何度も礼をして、掃除が始まる。  掃き掃除をした後、雑巾がけ。  これも足腰の鍛錬のためである。  更衣室へ戻っても、興奮してアドレナリンが止まらなかった。 「どうでしたか? 初めての稽古は」  緑帯の方が、話しかけてきた。 「いえ…… 頑張ります」  感想など、自分のような何もできない人間にはおこがましい。  なぜかそう思って、頑張るしかないという意味のことを言った。  道場から出るときにも全員に対して礼をして、最後に道場へ礼をする。  ずっと頭はフル回転だった。 「何とか生き延びた…… こんなに必死になった自分は、久しぶりだな…… 」  家に帰ると、教わった正拳中段突きをやってみた。  体が火照っていて、疲れは感じなかった。  風呂に入ると、落ちるように寝てしまった。  翌朝…… 「うっ…… イテテ…… 」  アバラが軋む。  太ももも腫れているようだ。 「そういえば、足に蹴りをたくさん受けたな…… どうやって対処するのか知らないから蹴られるばかりだった…… 」  駅を歩いていると、腹にも熱を帯びたようなダメージを感じた。  体のあちこちにある痛みや重さが、生きた証のように感じられた…… 「何だか、晴れやかな気分だ…… また道場へ行きたい」  そうつぶやく。 「いつもの通勤電車の混雑も、組み手の恐ろしさに比べれば、大したことないな」  心からそう思えるのだった。 「我卦さん。空手やってるんだって? 流派は? 」  職場の同僚の石田さんが話しかけてきた。 「はあ…… 誠劉会館って書いてありました」 「ええっ!? マジ? どうしちゃったの? 」 「そうですよね。あんなに激しいなんて、やってみるまで知らなかったんです…… 」 「フルコンタクトじゃんか。強くなりたくなったとか? 」 「いや。全然…… そんなんじゃないんですよ…… 」  利行は壁の先を見据え、遥か遠くを見つめていた。 「うひゃあ。こりゃあ。凄いことだね」  丸一日経つと、身体の痛みは大分退いた。  筋肉疲労は、激しい運動をした翌日の午後に反動がくる。  酷いときには、低血糖のような症状になり、うずくまるほどの疲労感を感じる。
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