【小説】なぜ、これほどまでに、のめり込むのか

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 フィットネスジムに通っていた利行は、運動した後の症状を良く知っていた。  午後には軽い疲労感があったが、マシントレーニングと違い、有酸素運動だったためか、さほど反動がなかった。 「しかし、このまま道場へ行っても昨日の繰り返しだ。帰りに本屋へ寄って調べて自習するしかないな…… 」  帰りに書店に寄ると『趣味・スポーツ』のコーナーを探した。  いつもふらりと来てしまう、資格コーナーの隣だった。 「武道関係の本は、意外と多かったんだな…… 」  始めて見るまで、風景の一部だった。  武道の本を眺めると、フルコンタクト空手の技術指導書が数冊あった。  その中に基本・移動・形を写真付きで解説している本を見つけて、買い求めた。 「よし。早速やってみよう! 」  家に帰ると、その本に書いてある通り、一通りの基本技をやってみた。 「武道は1にも、2にも基本の繰り返しだ。反復練習を毎日やろう」  とりあえず、正拳中段突きを100本やった。  これは、引き手を取って、相手のミゾオチに拳を捻じりながら突き入れる技である。空手の基本中の基本で、これを応用してあらゆる攻撃の体系ができている。 「なるほど。打ち合いになったときには内側へ攻撃を集中するのか」  フットワークなど組み手のテクニックは、ビデオで研究した。  そして、半年が経ち初めての昇級 審査を受けることになった。  筆記試験、基本、移動の後、 「では組み手の審査をします」  名前を呼ばれた人が組み手をして、技を見るようだ。 「我卦さん! 」 「押忍! 」  元気だけは良いが、内心不安が一杯だった……  相手は自分より年下のようだ。  ちょっと茶髪で、ヤンチャをしてきた雰囲気を纏っていた。 「正面に礼! お互いに礼! 」 「押忍! 」 「構えて! 始め! 」 「押忍! 」  利行は距離を取って、左回りに足を捌いて回転していく。  ビデオで見た世界選手権で、ある選手が体格が大きい選手に対して回り込む動作をしていた。  それを見よう見まねで組み手に取り入れていた。  このような組み手テクニックは、誰も教えてくれない。  道場では、基本、移動、形を繰り返すのみで、実戦的な技は自分で工夫するのだ。 「セイ! 」  相手が前蹴りを見せた。  あまり、膠着しているのも印象が悪い。  思い切って前に出た。  正面に立つと的になりやすい。
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