【小説】なぜ、これほどまでに、のめり込むのか

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 体を左右に振り、フットワークでフェイントを繰り返しながら懐へ潜り込んだ。 「セイ! 」  練習していた、左右の突きから下段廻し蹴りに繋げる、ワンツーキックを見舞った!  見事にヒットした!  だが相手もカウンターを取ってミゾオチに前蹴りを返す! 「ぐうっ! 」  体を捻って衝撃を逃がしたが、技の思い切りがいい。  そのまま捻じる動きを繋げて鍵突きで脇腹を捉えた!  だが同時にカウンターで中段突きをモロに食らった! 「はあっ、はあっ! 」  こういうヤンキーっぽい風体の道場生は多いが、大抵思い切りよく攻撃してくる。  そして、ナチュラルに強い。  利行は、ことごとくカウンターを取られ、攻め手を失った。 「それまで! 」 「押忍! ありがとうございました」  こうして、オレンジ帯を貰った。  体はいつも痣だらけだったが、心は満たされた。  死んだようになって彷徨っていた、利行の魂は復活したのだ。 「飲みにも行かないし、車も持たないし、結構金は貯金できてるな…… 」  実家に帰り、パラサイトをしはじめたためか、さほど出費もなかった。 「空手の勉強をしながら、再就職へ向けて準備していけばいい…… 」  打ち込むものができると、精神的に安定してくるものだ。  心の不安も消え、空手のことを考える時間が増えた。  体を極限まで追い込み、組み手が上達することだけど考え、家でも基本稽古を欠かさず繰り返す。 「ねえ。我卦くん。空手やってるんだってね」  職場でもその話題で、いろんな人から声をかけられるようになった。 「空手が自分を前向きにしてくれた。まだまだ始まったばかりだが、できる限り続けていこう…… 」  今日も近所の公園で、一人稽古に励む利行の姿があった。 了 この物語はフィクションです
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加