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開けた窓から、冬が終わる香りがした。風に乗って、吹奏楽部の奏でる音色が届いてくる。
空を向いて、少しだけ瞼を伏せた凛が、下がりそうな唇を持ち上げた。
「感情ダダ漏れだから、人間は撮らない主義なんだ」
言って、また後悔する。
なんだよ。結局、まだあきらめられてないじゃないか。
「そこがいいのに。このヘリクツめ」
シャッターを切る音がして、カメラを向けられていたことに気付いた。
なんとしても奪い取ろうと、陽気に笑う凛へ手を伸ばす。
「おま、やめろって! 見るな、絶対見るなよ!」
「きゃはは、夏琉のとぼけ顔。ぜったい見てやるー!」
カメラに映された俺は、あの夕日に包まれた凛と似た表情をしていた。
スマホに保存している、あの写真と同じ。この上なく切ない色で、優しく見守るような。
好きな人を見つめる、そんな瞳だった。
どんなに頑張っても、願っても、叶わないことだってある。
だけど、この笑顔を守れるなら、俺は彼女の幼馴染でありたい。この先もカメラを持って、二人並んで。
ーー選択した画像を消去しました。
fin.
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