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「で、さっきから何撮ってんの?」
空の顔が薄暗くなり出す頃、俺たちの時間が始まる。
校舎の周りを歩いては止まって、カメラを向けるを凛はひたすらに繰り返している。
レンズを覗き込む彼女の隣に腰をしゃがめて、なんとなく視線を追った。そこには、葉の上でじっとしているてんとう虫がいた。
「……冬なのに、珍しいな」
何度かシャッター音が響くと、小さな赤い点はどこかへ飛んでいった。
撮った写真の画像を確認しながら、凛がつぶやく。
「テントウムシの寿命って、だいたい二ヶ月くらいなんだって。成虫になって、卵をずっと産み続けて死ぬの。一年中命を繋いでるから、冬でもたまに見ることができるみたい」
カチカチと戻していく画像の中、ある一枚にたどり着いたところでカメラの電源が落とされた。
「……へぇ、凛ってそんなに虫好きだったっけ」
暗くなった画面から視線をずらすと、少し頬を染め上げる横顔が目に映る。
どこからか、楽器の演奏が流れてきた。優しく奏でられる音色が、風と一緒に凛の柔らかな髪を撫でていく。
「いろいろあって、図鑑見てた時期があったんだよ。大したことじゃないけど」
ふーんと、興味なさそうな返事をして、それ以上は聞かなかった。どうせ、ろくな理由じゃないだろうから。
「それより、夏琉は? なんかいいの撮れた?」
人のデータを勝手に操作する幼馴染に、思わずツッコミたくなる。
お前は、俺のーー。
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