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「俺のプライバシーをなんだと思ってるんだ」
「……え」
「今、そうゆう顔してた」
「なら見るなよ」
さっとカメラを取り返して、ケースへしまう。
「見られたくないのだって、あるかもしれないだろ」
「えー、なに? わたしにも知られたくないってこと? それあっやしー」
ケラケラと笑いながら、凛が俺にレンズを向ける。
顔を背けるより先に、カシャンという軽やかな効果音が流れた。
「女子のスケベな写真とかあったりして」
「……やめろって。俺を被写体にするなって言ってるだろ」
それにないからと付け加えて、低くしていた体を起こす。
消せと要求しても、拒否されるだけだからもうしないけど。不意打ちの情け無い顔が、凛のデータに何枚も残っていると想像しただけで寒気がした。
何日も写真ばかり撮っていると、気が狂いそうになる。
そんなことを口にしたなら、血相を変えた凛に、「じゃあなんで写真部に入ったんだ」と首を揺さぶられる絵図が目に浮かぶ。
堤防に座りながら、誰もいない河原に視線を向けて。小さく息をするたびに、白く残っては消えていく。
「今年も寒くなってきたね」
レンズを覗き込んだまま、隣で凛がシャッター音を鳴らした。続けて、俺も指を動かす。
いくら覗き込んでも、心が動かされるような写真が撮れない。それは、俺だけじゃなくて凛も同じだった。
これでは、フォトコンテストに入賞なんてできないと、二人ともよく分かっている。
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