この冬をレンズに閉じ込めて

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 写真部の活動は、月が夜空を照らす時間になることもある。  何度帰ろうと促しても、カメラを手にした凛が聞くわけもなく。仕方なしに、俺も付き合っている。  ひと段落つけて、腹ごしらえをするためにファミレスへ入った。  メニューを開いたまま、凛がぼーっと俺の顔を見て。 「夏琉ってさ、好きな子いないの?」  とうとつに言うから、口に含んだ水を吹き出しそうになった。  急いで喉へ通したから、逆にむせそうになって、なんとか胸を落ち着かせる。 「こんな時間まで付き合ってくれなくていいよ。わたしは趣味も入ってるから」 「暗闇にひとり置いてけるかよ。それに、家となりだろ。ついで」  頼んでいた明太子パスタとハンバーグセットが運ばれてきて、軽く会釈をした。  凛の家は、父親がいない。幼い頃に病気で亡くしてから、母親が一人で育てている。  夜遅くまで働いているから、いつも夕食は誰もいない部屋で食べているらしい。 「なんだかんだ、夏琉は昔から優しいよねぇ。知らないかもしれないけど、あんたのこと好きって子もいたんだよ。二人くらい」  自慢げに指を二本立てて、ドヤ顔を決めている。まるで自分のことみたいに。 「……ビミョー。そこは盛っとけよ」  ハハッと乾いた笑い声が、味気ないパスタに落ちた。  一番好いて欲しい子には、友達としてしか見てもらえない。
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