この冬をレンズに閉じ込めて

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「夏琉に彼女できたら、わたしたちは他人だから」 「……なんだそれ」 「必要以上に、一緒にいない方がいいよ。たぶん、彼女もイヤだと思う。彼氏に、女の幼馴染がいるなんて」  時々、凛は弾丸を撃ち込んでくる。たまに急所に入ることもあって、それが結構キツイ。  くるくると巻きつけたパスタが、つるんとフォークから逃げて、元よりなかった食欲に追い討ちをかけた。  食事を終えて、ファミレスを出る頃には、星が散らばる空へと変わっていた。  頬を刺す冷たい空気が吹き付ける。十一月の末にしては薄着の凛が、さむっと体を震わせた。  見てくればかり気にするから。もっとあったかい格好をしろよ。  心のつぶやきでも聞こえたのか、振り返った凛が、少し後ろを歩く俺に小走りで駆け寄って。 「……さっき、夏琉に彼女できたら〜とか言ったけど。今は作んないでね」 「……は?」  隣に並んで、言いづらそうに口を尖らせた。揃えたような歩幅は、同じリズムを刻み出す。 「だって、急にさよならは……ね。こうやって、普通に話せなくなると思ったら、やっぱ寂しいじゃん」  冬の空気のせいだろう。少し紅潮していた頬が、凛の手によって隠された。  今まで見せたことのない表情で、胸の奥がずしりと重くなる。とっくに封印していたはずの感情が、じわじわとこじ開けられていく。  ……ほんと、勘弁してほしい。  等間隔に置かれた街灯の下を歩きながら、互いの距離は手を握れるほどまでに近い。 「じゃあ、凛も作るなよ。せめて、フォトコン終わるまで」  冷え切った手をポケットに突っ込んだまま、ちらりと視線を送る。 「あはは、ないない〜。わたしも好きな人いないし。ほら、写真部の方が大事だし? けっこう、今楽しいから」  ふふっと笑う無防備な首に、黒いマフラーを(くる)み巻いた。  いいのに、と返そうとする手を掴んだら、予想以上に冬の温度がして。俺は強く握って、静かに離した。  止めどなく押し寄せる想いが、完全に復活してしまわないように。
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