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彼のち温もり恋日和
初詣を終え、来た道を戻る。さすがは八百年余の歴史を有する神社だ。元旦とはいえもう午後なのに、まだまだ人の波は途絶えない。
ふいに大石段を前にした悠馬さんが立ち止まった。私を見下ろす優しい瞳と少しだけ隙間のあけられた右腕にすべてを理解する。
「ありがとう」
そっと差し込んだ左手は、悠馬さんの大きな手でぐっと引かれた。半身がぴたりとくっつくくらいに寄せられて、わっと小さく声が漏れた。
「また誰かにぶつかられたり、転ばれたりしちゃ困るからさ」
「もう。どんくさい女だって思ってるんでしょう」
「それはどうかな」
悠馬さんの瞳がいたずらっぽく細まる。付き合い始めて数か月。顔を赤くせずに体に触れたり、冗談を言ったりできるくらいには恋人らしくなれたことに、どこかほっとした。正直、上手くいく自信はあまりなかったから。
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