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高瀬瞬は大学の同級生で、サークルが一緒で知り合った。
大学生らしくおしゃれに敏感で、屈託のない笑顔が素敵なムードメーカーで、末っ子長男らしく聞き上手で優しい。そんな瞬は学年問わずモテていて、私もそのうちの一人だった。
平凡な私が彼を自分のものにできるなどとおこがましいことは一切思っていなかった。ただ、片想いしている相手がいるだけで毎日が楽しかった。それが、どういう神様の気まぐれか、瞬に告白された。初めての彼氏だった。
まだ大学生の彼なりに、私は大切にされていたと思う。しばらくは舞い上がる程に幸せだった。だけど一緒にいる時間が長くなればなるほど、好きな気持ちは変わらないのにずれが生じた。
先におかしくなったのは私だった。私の恋人であることは公表しているにしても、他者への態度は相変わらず分け隔てなく、私が片想いしていた頃のままの瞬に、私が勝手に不安になったのだ。
私以外の人に笑顔を向けたって、二人で喋ったって、相談に乗ったって、電話をしていたって、ご飯に行ったって、そこに私が不安に思うような何かがあるわけではない。それは瞬にとってはやましくもない普通のことで、決して気持ちが浮ついているわけではない。それは頭ではわかっていた。でも、その事実に、私が勝手に心をすり減らした。
そんな性格の瞬だから私だって例にもれず惹かれたくせに、立場が変わるとそこが不安要素になるなんて。今以上に幼かったのだ、私は。
彼を想う以上に苦しさが増して、就活が始まる頃に彼との関係を自ら解消した。就職先が同じ方面なのは噂で聞いていたけれど、これまで会うこともなかったから、きっと今後もそうなのだと思っていた。それがまさか、こんな人混みで再会するなんて。瞬もきっと、私に気付いていた、と思う。
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