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4話
『お兄さん、これまだ安くならないの?』
『すみません、夕方に作ったお惣菜なのでまだ下げられないんです』
その声に振り向くと、いつもこの時間は品出しをしている彼が後ろにいた。値段を下げる端末を持った彼に、年配の女性が肉じゃがのパックを手に食い下がる。
『昨日の人はもうこの時間には貼ってたわよ。バイトじゃ話にならないから、上の人呼んできなさいよ』
そんな言い方しなくても……。そう思った時すまなそうに彼が言った。
『あいにく店長は休みで、副店長は電話対応中です。今は主任の私の判断で値下げを決めさせてもらっています』
『えっ!主任?バイトじゃないの?』
(えーっ!)
同じように声を出して驚くところだった。うんうん、私もそう思ってた。だって……。
『若く見えるわねえ』
そうそう何歳か聞いて、あと彼女がいるかとか……。
『そんなことより何で下げられないのよ』
(あー、もう肝心なところで)
『昨日は雨でお惣菜が沢山あったので早くに値下げをしたんです。時間ではなく天候やお客様の人数などで判断するので、ご理解いただけるとありがたいんですが』
確かに惣菜売場の壁に、今言ったことが貼られている。
『そうなの?じゃあ仕方ないわね。でも、もうそろそろ下げても良いのに。お嬢さんもそう思うでしょ』
へっ、お嬢さんとは私のことですか?
『いえ、はあ、まあ。どうでしょう……』
女性に同意を求められたけど、彼の前で「はい」とは言いづらい。
私の困った様子を見て彼が端末機に打ち込み、出てきた値引きシールを肉じゃがのパックに貼った。
『あと三個だけなので、売り切った方が良いですね』
にっこり笑かけてくる。今日は良い日だー。
『あら、二割引なの?でも良いわ、ここの甘さ控えめで美味しいのよね。あなたも買いなさいよ』
『え、でも必要なんじゃ……』
『私は主人のと二個あればいいの』
彼は三つ目のパックを持ち、こちらを向く。
『良かったら召し上がってみてください。うちのスタッフの自信作です』
『あ、じゃあ買います』
薦めてくれたことが嬉しくて、ついそう言ってしまった。
『ありがとうございます』
(今夜は昨日のカレーを食べる予定だった……)
受け取った中身を見て、糸こんにゃく以外は同じ顔ぶれだと気づく。
支払いを済ませ出口に来ると、先ほどの女性が店内の掲示板を見上げている。
『あらー、本当に主任さんだったのね』
彼女が帰ったあと、同じところを見てみた。店長、副店長の名前と顔写真の下に主任、赤坂正一という名前と彼の写真があった。
『本当だ』
チラシは見るけど、その上の社員の名前までは気にしたことがなかったなあ。そもそもバイトだと思っていたし。
(しょういちくんかな、せいいち?まさかず?)
ともかく、十歳も年下ではないことは判明した。つき合うとかそんなんじゃないけど……。ううん、もし彼とつき合ったらなんて、ちょっとくらい想像するのは良いよね……。
彼が触れた二割引のシールを手帳に貼って眺める。
(小学生の時に好きな男の子がくれたシールを使わずにずっと持ってたっけ)
成長しない自分に苦笑いしながら、カレーと肉じゃがをレンジで温めた。
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