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7話
「ありがとうございました」
私は今、以前とは別のショッピングモールの化粧品売り場で働いている。と言っても同じ系列のストアで客層も変わりない。
「店長、お昼行って下さい」
「ありがとう。今日はお弁当ないからスーパー覗いてみる」
そう、私はこの店の店長だ。
ミキが辞めてから派遣社員が二人も入れ替わった。前任の店長が海外研修に行き、勉強に来ていた社長の甥の店長が郷田さんの言いなりになっていた。自分の都合でシフトを変えたり、ミスは派遣に擦り付ける。何よりお客様のことを大事にしない。
二人目が辞める時に私は店長に全て話した。わかってもらえない時は自分が辞めさせられるかもしれない。でも我慢できなかった。そのタイミングで前の店長が戻ってきた。
『来月東エリアに新しいモールが出来るの知ってるわね。そこに行って欲しいの』
『異動……ですか』
店長は、会社からの正式な辞令だと言う。家から通うにはずいぶん遠い。
『あらあら通うの大変ね、いっそ辞めてってことじゃない?』
郷田さんがニヤついている。
『私、辞めません。遠くても行きます。この仕事が好きだから』
その言葉を聞いた店長が握手を求めるように手を差し出す。
『あなたならそう言ってくれると思ってた。よろしくね新店長』
まさかの言葉にビックリした。
『えっ、私がですか?はい!もちろん』
手を握り返すと、郷田さんが納得出来ないと怒りだした。
『何で松岡さんなんですか。私の方が先に入社して、売り上げだって多いのに!』
『店長から聞いてるわ、郷田さん。口先で売るだけじゃなく相手の身になった接客をしてね。ここにいたいのなら、しっかり働いてもらうわよ』
『えーっ』
店長が会社に話してくれたおかげで、派遣の二人の解雇は取り消された。勉強熱心な彼女たちと今一緒に働いている。
それにしても通勤時間がかかるので、お弁当も毎日は無理だ。時々フードコートを利用しているが、今日はスーパーの食品売り場に寄ることにした。
店舗で聞けばわかるのだろうけど、赤坂くんが辞めたのか転勤したのかも知らない。未練がましいと思いながら、店に入る時にはもしかしてと従業員の掲示板を確認してしまう。
「あれ?ウソ……!」
そこには「副店長、赤坂正一」という名前と彼の顔写真があった。
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