雨のち

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『今日は1日いいお天気で、傘の出番はなさそうです。』 今朝、画面越しにキャスターが見せた朗らかな笑顔を思い出して、すごく微妙な気持ちになる。あの言葉を信じて傘を家に置いてきた人たちは、みんなこんな気持ちだろう。 まさか、一瞬だけ土砂降りになるなんて。 「シャワーでもあびたみたいだねぇ。」 一つに結った長い髪を絞りながら、春川が言った。 「そうだね。」と呟いて、私も髪を絞る。信じられないくらい水が出てきた。 私たちをズブ濡れにした雨雲は、ものすごい速さで東の方へ逃げていく。わざわざ下校時刻を狙うとは。何ていじわるなんだろう。 「ついてないな。」と言ったら、 「そうかなぁ。」と返ってきた。 「見て!」と春川の指差す先に、ぼんやりと七色の大きな橋がかかっている。 「傘さしてたら気づけなかったかもしれないね。」 出番がないって、そういうことか。 キャスターの笑顔を思い出して、やっぱり微妙な気持ちになった。
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