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その6-1
前世とやらの縁ですっかり仲良くなった康賢と宮さま。
今日も左馬の助にみっちり俺の剣の相手をさせた後で、康賢の屋敷で入浴中。て、拒む俺をいつも通りに脅して、何故か三人仲良く湯船の中......。
まぁ俺の裸体が貧弱なのは許してもらって、康賢はなかなか筋肉質。陰陽師って結構体力使うんだって。
......いやいや、問題はそこじゃなくて、なんで尊い宮さまが全裸で足伸ばして、俺の前で鼻歌混じりなの?不敬罪で首がすっ飛ぶ世界よ、これ。
「結界も張ってあるし、誰にも喋らなきゃ大丈夫」
って康賢、お前大胆過ぎん?
「そうだよ。男同士の裸の付き合いなんて当たり前なんだから、俺達のいた世界では」
宮さま、そうは仰いますが、スラリと伸びた手足にキュッと締まった細い腰、色白なお肌がほんのり紅く染まって......もぅ尊いを通り過ぎて目の毒。
その気の無い俺や康賢だからいいけど、宮中にはそちらの色好みも沢山いるんですからねっ。
「なんだ、喬望、もうのぼせたのか、顔が真っ赤だぞ」
「そんなに熱い湯じゃないけどな......」
いやお湯は気持ちいいです。適温です。でものぼせてます。違う意味で......。
「いや大丈夫.....」
と言ったところで、ポタリ........。え?ポタリって?!
「喬望、お前、鼻から血が......」
ーえ?嘘!?ー
言われて鼻の下に触れると手が赤......い。
「さ、先に上がりますっ!」
鼻を押さえて、湯船を飛び出し、脱衣の間に猛ダッシュ。アワアワする俺にスッと懐紙を差し出してくれる式神お姉さんのいと有り難き。
「なんじゃ、あれくらいで湯あたりとは情けないのぅ.....」
あたったのはお湯ではなく貴方にです。
床にだらしなく転がる俺を桜貝のような爪先でつんつんするのやめて、宮さま。また鼻血出る。.......本当に小悪魔なんだから。
「あんまり苛めて下さるな、宮さま。......そいつは年のわりには初心なんですから」
「通ってる女くらいおるじゃろ、まさか......」
「それがですね......」
わー!わー!
康賢、要らんこと言うな。
「なんと!筆下ろしもしとらんのか?」
「し、してますっ!」
宮さま、ひどいっ!
俺は慌てて跳ね起きた。
「ほぅ......いつ?どこで?」
なんですか、その疑いの眼は。してますよ、十五で。年上の女官のお姉さんに喰われました。あんまり記憶に無いけど。確かに、ーご馳走さまーって言われたもん。
「十五才の頃......相良内侍様にお手解きを.....」
あぁ.......と宮さま。
「あの初物食いが趣味の年増かぁ」
ま、なんて下品な事を。一応、皇后さまの内侍なんですよ、彼女は。まぁ後朝で、ーこれっきりよーと言われまし
たけど。
「他には?」
「そんなこと人前で言うもんじゃありません!」
俺だって頑張ってるんです。これぞという女性にはことごとく袖にされてますけどね。押しが弱いのは親譲りなの。ぐすん。
「まぁまぁそれくらいで......餉にいたしましょう」
康賢、そのにやけ顔やめ!百戦錬磨のお前からすれば、俺はまだ小僧だよっ。ぷんすか!
「お、今日はなんだ?」
「川穴子の蒲焼きです。まぁ鰻にはかないませんが」
「やったぁ!!」
康賢の言葉に宮さまの興味はあっさりそちらに旋回。やっぱり色気より食い気だよな。お子ちゃまはっ!......内緒だけど。
でも、確かにここの膳は美味い。飯も強飯ではなく、柔らかく炊いた姫飯だし、青菜や蕪の付け合わせの菜も瑞々しくて味が良い。
「塩は必要ですが、取りすぎると病の元ですからね」
葛の蜜と酢で浸けた蕪や生姜、焼いたニンニクを添えた膳は他の家ではまず出て来ない。葱も薬味に蒲焼きにふんだんに散らしてある。
「健康第一です」
康賢いわく、『あっち』の世界では薬師のようなものだったらしく、引きこもったのも『健全な食生活』をするためもあったらしい。
「確かに、この世界の飯は不味い」
箸を振りながら、きっぱりと言いきる宮さま。お行儀悪いですよ。
「なんせ宮中の食事はみんな堅くて塩辛い」
いや、それは食材を日持ちさせなきゃいけないでしょ。肉だって何時でも取れるわけじゃなし。
「爺様のところは、下人が鳥討ちしたのや、獣を狩ったものを持ってくるから、肉は食えるし、ここと同じで酢に浸けた物やニンニクや生姜をよく食うから、まだ食べられる」
聞けば大将が任地にいた頃の鄙の食事の方が体調が良かったので、都に戻ってもそれに近い食事にしているらしい。さすが身体が資本の肉体派。
「でも、この時期に冷水浴びる根性は俺には無いけどなぁ」
と宮さま。大将は冬でも一汗かくと、井戸の水を浴びるらしい。やっぱ化け物だわ。東宮さまが宮さまの将来を危ぶむ気持ち、わかるわ。
宮さまが化け物のようにタフになったら、誰も制御できません。
俺?無理、無理、無理ぃ~!
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