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その2
「まったく、えらい目にあったよ」
ぶんムクレる俺の前でニヤニヤ笑いながら柱に寄りかかって酒をかっくらっているのは、賀茂康賢。俺の幼なじみで名前どおり親父は陰陽師。
こいつもなかなか才能あるはずなんだけど、跡継ぎ放棄して別邸に家出中。
理由は何かって言うと、
ー陰陽師なんて碌な稼業じゃないー
だって。
宮中で一番偉い陰陽博士はこいつの祖父ちゃんなんだけど、親父さんは次男坊でマトモな仕事が回ってこないんだと。
ー浮気相手のとこに通っていたら、本妻の生き霊に祟られたからなんとかしてくれとか、本妻に収まりたいから相手の嫁を呪い殺してくれとか、恋敵を呪ってくれとか。ロクな話来ないぜー
大袈裟に溜め息をついて言うけど、実はこいつもかなり遊び人だった。なんせ顔立ちも涼やかなイケメンなもんだから、モテる。平凡な俺と違って。
それでもって調子に乗っていたら、藁人形で呪われるわ、相手の元彼から闇討ちされそうにはなるわで、色事からすっぱり手を引いた、女性との。
宮中でも都でも同性愛ってのも普通にあるから、今はそっち専門。今の恋人は近衛の少将。年上のイケテる男らしい。こいつ、年上好きだもんな。
「良かったじゃないか、親父さん鼻高々だろう」
「親父はな」
俺は可愛い娘さんに振られて凹んでんの!
「それで~?、その美人さんの素性は分かったのかい?」
呆れ半分に欠伸しながら訊くなよ。
「まだだよ。......たぶん二条に屋敷持ってる家の子供なのは分かったんだけど」
「そんだけ?」
「それだけだよ。.......惟近のやつ、今はまだ調査中です、ってさ」
「ふ~ん」
ムクッと起き上がり、ニヤニヤ笑いで俺の顔をマジマジと見る康賢。
「占ってやろうか?」
「何をだ?」
「運命の出逢いについて」
「はぁ~?」
頓狂な声を上げる俺にますます寄ってくる康賢。近い近い、近すぎるぞ。
「相手は男の子だぞ?俺はお前とは趣味が違うの!」
俺は純情可憐な女の子が好きなんです。んでもって、宮中で最近流行りの恋愛小説よろしく俺の好みに育てるんだ~い。
「運命ってのは別に恋愛に限った話じゃないさ。大出世の幸運をもたらしてくれるかもよ?」
「いらね~よ、そんなの」
俺は親父の七光りでのんべんだらりと暮らせればいいんです。
あくせく宮仕えなんて絶対嫌だも~ん。
なのにさ.......。
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