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その3-2
俺のほっとした顔とは裏腹にますます渋い顔になる東宮さま。駄目ですって、皺が残りますよ。老けちゃいますよ。
「ところが.......だ」
はい?
「帰って来ないのだ」
は?
「武官になりたいなどと言い出しおって、まだ禁裏の淑景舎におれば良い年頃なのに、岳父の右大将の家に入り浸って帰ってこない」
あぁ、ありましたね、二条に。橘の右大将、別名・荒獅子の右大将のお屋敷。俺も親戚ですけど、怖くて近寄れません。あ、だから調査中なのか、惟近。わかるわ~あそこ門番からして怖いもん。
「祖父の右大将は厳ついが、皇子は可愛い。小鹿のような華奢な身体に父上似の笑うと芙蓉のような美しい顔......で、あったろう?」
「はい、仰せの通りにございます」
否定はしません。仰るとおりのとびきりの美人さん。男だけど。でも、その握りしめた拳は何なんすか?陶酔入ってません?
「絶対、武官なんか似合うはずがない!......加冠だって、あの絹のような黒髪を切るなんて考えられない!」
あの.......もしもし東宮さま?ちょっとヤバいとこ入ってません?
「で、お逢いしましたが、それが何か?」
いきなりキッと表情を変えて、東宮さまが俺に詰め寄る。近いですって、顔面破壊力半端無いんですから、公的距離感、大事です。
「正直に申せ、あの悪党どもを斬ったのは皇子か?」
「あ、はい......」
やっぱり......と大袈裟に嘆いて顔を覆う東宮さま。でも、悪者、斬ったんだからいいじゃないですか。
「いいわけあるものか!......今上帝が、三条の太刀など造って差し上げるから......。大将が調子に乗って武具など設えてやるから......」
なんでも皇子さまの七歳の誕生日、守り刀のつもりで三条はかの有名な刀工、宗近に今上帝太刀を打たせたのだそうだ。号は蛍雪丸だそうな。
素晴らしい出来栄えで、感動した荒獅子大将が武具一式を設えて、出陣式の真似事までしたそうだ。
さすが脳筋武闘派、やることが違います。まぁ東宮殿下はすごいショックで猛烈に抗議したそうだが......。
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