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その4-1
東宮さまの御前で対面して思うに、この皇子さま、みっちゃんはなかなかの曲者。
出されたお菓子はちょっとずつ小鳥みたいに啄むように召し上がり、東宮さまのお言葉にははにかむようにお袖で顔を隠して小さなお声で丁寧にお答えになる。
それでもって、書かれたお歌を拝見する俺には射殺さんばかりの猛禽の眼差し。
大丈夫ですって、そこそこいい線いってますから、これ本当。
「宮さまは、お歌が上手でございますね。特にこの雛鳥を可愛いと思われるくだりなど......」
まぁ二割増し程度に褒めると、相好を崩したのは東宮さまの方。
「そうであろう。みっちゃん......いや、倫智王の歌は可憐で人の心を揺さぶって止まぬのじゃ」
いや......その......あの雉討ちたいけど、雛鳥が可愛いから止めとくか......ってそれなりにワイルドなお歌に思うんですけど、俺は。
「今度の歌合わせには、是非にもみっちゃんの歌を披露したい。......喬望も当然、参加するであろう?」
「は......」
そりゃタダ酒、ご馳走大盤振る舞いが後に控えてますからね。ちょっとばかりのお愛想くらい安いもんです。だけど面前のみっちゃんは思いっきりイヤな顔。
ー面前くせぇ......ー
駄目ですよ、高貴な御身分の貴公子がそんな汚言葉使っちゃ。
かと思えば沈黙なみっちゃんを気づかって東宮さまが賑やかに
「みっちゃんも参加するよね?」
と宣えば、これまた極上の微笑み返しでお答えになる。
「勿論でございます。東宮さま」
「もぅ、身内しかいない時は、東宮さまではなく、お兄ちゃんて呼びなさいと申したであろう?」
東宮さま、そのイヤイヤポーズ止めましょうね。キモいです。引きますよ。
「あ、兄上さま......承知いたしました」
「そうじゃなくてぇ~」
どうも東宮さまは、この皇子さまが可愛いすぎて仕方ないらしい。
まぁ二宮さまは異母弟だし、他の宮さまも同じ。しかも、二宮さまの母君はやはり故人だけど、先の中宮さまとは超仲が悪かった。
身分は中宮さまの方が上なんだけど、今上帝のご寵愛は深かった。てか、今上帝はいまいち趣味が悪い。
性格キツイ女人がお好きなようで、虐められて喜ぶタイプ。うちの親父が言うに中宮さまは、実はかなりドン引きしてたらしい。
東宮さまと、下の内親王さまをお産みあそばされてからは、むしろお渡りお断り状態だったそうな。
まぁねぇ......政に関しては仁徳深い名君なんだけどね......やっぱストレス溜まるんかしら。
だから、二宮さまの母君、桐壺の女御が存命中の頃は宮中は荒れたらしいけど、流行り病でポックリ。まぁ中宮さまもなんだけど......合掌。
今の今上帝の皇后さまは、なんと親父の末の妹。これまた変わり者なんだけど、そこそこ仲良くやっているらしい。
ただ、若い公達が仲良くしている姿を見るのが大好きだそうで、宮中の同性カップル増加を喜んでる、変な人。
『貴方ももう少し見栄えがすれば.......』
ってそういう趣味無いですから、俺は。
推しは美中年鷹司の参議とイケメン真木の少将だそうだけど、今上帝に内緒で薄い本作らせて回し読みするのは止めましょうね。
本人達、寝込みますよ。まだ友人の清い仲なんだから。
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