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その5-2
ここは都の北の端、賀茂家の別宅。つまりは、賀茂康賢の家。
俺は、日々、宮様に拉致されて荒獅子屋敷でメタクソにしごかれ、全身痣だらけ、絶賛筋肉痛祭り。
で、康賢の家に逃げ込んで、手当て中。康賢ってば結構博識で、薬草取ってきてゴリゴリ擂り潰して、布切れに塗りつけては、俺の痛いところにペタペタ貼りつけてぐるぐる包帯で巻いていく。
「痛て、痛て、痛てて......」
「もちっと我慢しろって......しっかし派手にやられてんなぁ。宮さまはそんなに強いのか?」
「ま、まぁな......」
雑色のお子ちゃま相手にこてんぱんにされてるなんて、口が裂けても言えません。
家の連中はそんな俺のプライドなんて知ってか知らずか、荒獅子家の迎えが来ると嬉々として、を通り越して、耳引っ張って牛車に押し込まんばかりの勢い。
まぁ家としては東宮家とは昵懇だし、誰も中宮さまには逆らえない。我が家の最強。
でも何だかんだで兄上達とも仲悪くない。
中宮さまと俺の母上と、兄上達の母上はそもそも従姉。他の親父の奥さん達よりは仲いい。
で、中宮さまと俺を産んだ母上が病で亡くなった後は親身になって育ててくれた。
だから俺はグータラ息子でいいの。兄上達の邪魔にならない程度に呆けて暮らすの。
なのにさっ、その義母上まで嬉々として俺を荒獅子屋敷に叩き込むんだぜ。
ー尚隆や雅望は武芸はイマイチだから、あなたは頑張りなさいー
って、義母上、俺を武官に仕立てるつもり?無理だから。
「主さま、お客さまです」
康賢にひとしきり手当てをしてもらって、持参した自然薯を肴に一杯やっていると、綺麗な女房さんが、縁の端にスルリと現れて頭を下げる。綺麗なんだけど、この人、式神なんだよね。
ー人間の女は面倒ー
って、どんだけだよ、お前。まぁ分からなくはないが。
「誰?」
「二条の五の宮さまとか......」
げっ.......。
という俺の呟きより早くドカドカと室内に乱入してくる美少年。いやせめてスタスタとかトコトコとかいう擬音にしたいんだけど、そんな勢いじゃない。
「喬望ぃ~。サボりかぁ!?」
「いやいやいや、みっちゃん、いえ宮さま、今日はこの康賢と大事な話がありまして......」
人間、休養も必要なの。だから、そのすぐに太刀の柄に手を掛ける癖、止めて。
「失礼ながら、こちらのお方は?」
おっとりと訪ねる康賢。余裕だなお前。
「大雀部宮倫智王さま。今上帝の五の宮さまにあらせられる」
「これは宮さま.......このようなむさ苦しき所にお運びいただき、恐悦至極にございます」
俺の紹介に、慇懃に頭を下げる康賢。
何故かニパッと笑う宮さま。
「賀茂の引き隠りか......ちょうどよい、聞きたいことがある。人払いを.......」
「ご心配には及びませぬ」
康賢がパチリと指を弾くと同時に四方の御簾がパサリと落ちて、結界が張られる。すげぇな陰陽師。
「さて、お訊きになりたいこととは......」
康賢の言葉に、宮さまの口元がニヤリと笑う。
「その方、転生者であろう?」
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