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体の奥に次々と与えられる甘い刺激に耐えきれず声が漏れそうになる。
俺はそれを反射的に抑えた。
(だめ、だ。だってこの人は……)
男の愛撫にとっくに慣れた体は弓なりになり、傍目には快楽を享受しているようにしか見えないだろう。
「押さえるな」
口元に当てていた拳を外される。
その声も鍛えられた体も、もちろん顔立ちも全てが極上品。
夜の闇は人の目には何も写してくれない。
室内のランタンはほとんど俺のために灯されているが、今はそれも火を落とされている。
だから、顔なんて分かるはずなんてないのに。
流れる金糸、強い意思を宿した深い青の瞳、全ての均衡がとれた完璧な顔立ち。
初めて会ったあの時から少しも変わらない容貌は、目の前の相手が人外であると知らしめているのに。
(初めて……)
つきん、と胸の奥に微かな痛みを感じながら思う。
(きれいだ……)
細くそれでいて男性のものと分かる指が俺の首に触れた。
「まだ痛むか?」
(分かっていてこの人、って『人』じゃないか……)
声を出すと甘い喘ぎが混じりそうだったので首を振った。
とたん、甘い刺激を持った痛みが走り、結局俺は喘いでしまった。
「やはり、他にも作るか」
ゆっくりと痕が残る俺の首筋を撫でながらそんなことを言う『我が主』に、
「俺ではだめですか」
(他にも、ってやっぱりそういう意味もあるんだよな)
基本、彼ら(って他には見たことないけど)の食事は俺達人間の血だ。
数年前現れた吸血鬼が再び姿を見せた、と聞いたときの高揚は今はない。
(だって……)
「何だ。嫉妬でもしたか。案ずるな。ここへは始めて来たが、お前の血は極上だ」
だから、困るのだがな。
そう艶めいた声音で続けられて、収まったと思っていた体の奥に一瞬で熱が生まれた。
(でも、やっぱり貴方にとってここは『はじめて』なんだ……)
慣れた手順で体の熱を広げられながら俺はその虚しさを隠した。
(俺達はそのずっと前にも……)
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