28人が本棚に入れています
本棚に追加
祐樹との別れはそれはもう、酷いものだった。
浮気現場をこの目で発見した上に、もう私に気持ちはないと言われた。
私は、恥ずかしいことに祐樹にすがった。
何をしたら戻ってきてくれるの、また好きになってくれるの、と。
それを言ったときの祐樹の冷たい目を忘れない。
私は荒れた。毎晩のように飲み歩き、親友たちにすがり、・・・でも、そんなことをしたとしても不毛だった。
いくつもの夜を泣いて過ごした。復活するために私が出来ることは何かと模索し始めたのは、1ヶ月ほどしてからだっただろうか。なんとなく勤めていたメーカーを退職し、大好きだったカフェ「こもれび」でウェイトレスとして働き始めたのだ。オーナーの美苗さんは私より10歳上の45歳の女性で、そこにいるだけで、みんなの空気が優しくなるような素敵な女性、こんな女性になりたいと思えるような人だ。傷ついた仔猫のようだった私を優しく店に迎え入れてくれた。
「どう?優愛ちゃん、店には慣れた?」
「はい。常連さんたち、いい人たちですね。おしゃべりするのも楽しいです。まだ、至らぬところはあると思いますが、よろしくお願いします」
「優愛ちゃん・・・今時、古臭いとは思うんだけど、お見合い、してみない?」
えっ、お見合い?20代ならまだしも、35の私と見合いしたいなんて男性がいるのだろうか。
「いくつくらいの方ですか?写真はありますか?」
「40代の方だけど・・・写真は、お互いに会ってのお楽しみってことで。どうかしら」
考えてみれば、これはチャンスかも。お見合いをして、「恋」を自覚しないままに結婚すれば、そこから再出発できるかもしれない。こんな私でも。
「よろしくお願いします」
私の祐樹からの卒業の第一歩になればいい、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!