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「あけましておめでとう」  スーツ姿の和也が、一冊の本を持って入ってきた。 「ここ病室だから静かにね」  カーテンで仕切られているとはいえ、小声でも、話の内容は筒抜けだ。 「……書籍化おめでとう」  ありがとうと呟き、照れ笑いを浮かべる和也。  あの日、和也は出版社の担当者とリモートで打ち合わせをしていたらしい。 「クリスマスプレゼントに書籍決定の知らせを届けたら喜ぶだろうと思って、外へ飛び出したら」 「線路の中に私がいた」  二人で思わず吹き出す。お互い無事だったからこそ、こうして笑える。 「今年は雨の中で三時間も……待たなくてよかった」 「今年じゃなくて去年ね」 「あ、そうだ」  再び響く二人の笑い声。向かいから咳払いが聞こえたので、自重した。
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