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「うん……まぁうん」
「一緒に過ごさなくてよかったの?」
円盤形のパンケーキを豪快に頬張る久実。
「いいの。三日後に会うし……それに、私は久実と過ごしている方が楽しい」
シロップで口を汚した久実の顔が見るに堪えないので、スマートフォンの画面に視線を落とす。
今日一度も開いていない『和也』からの新着メッセージは合計三通。
今は、久実とのお喋りに忙しいから開かずに放っておく。返事を考えるのに神経も使うし、和也も催促はしないし。
「彼氏くんからは誘われなかったの?」
おしぼりで口を吹きながら、ニヤニヤする久実。
「誘われていたよ」
一ヶ月以上前に。だけど断った。和也とは過ごしたくないから。
「彼氏くんが可哀想だなぁー!」
会いたくないんだから仕方ない。
……和也と会うと、コブラに睨まれた野ウサギみたいに、体が強張って……会話の内容すら頭に入らなくなる。
この感覚は、会った時だけじゃない。会う何日も前から……辛くて、胸がこう……ペンチで回されるような痛みで……適切な表現が浮かばないけど、とても苦しくなるの。
……だから、気心がしれた友達と過ごす方が気楽で心地いい。
ふと首を左に傾げる。外はすっかり闇の世界。窓には水滴が張り付いていた。
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